ノートルダム女学院の<ザ・授業>
<02>思考の種類とアクティビティ

私たちの生活は、数学の世界で満たされています。京都タワーを見て高さを測りたいと思ったことはありませんか?インターネットで調べればすぐにわかりますが、測量器で測ることもできます。しかし、もともと計算して設計されていますから、それができるのです。その設計段階で三角比の発想は使われているでしょう。

SDGsで、世界の人口問題と食料問題を解決しようというとき、そこには、等比数列と等差数列の発想がでてきます。社会科で学ぶマルサスの人口論などはその典型です。さらに、微分積分の考え方も適用されます。人口増加は時間にともない変化しますから、人口増加率には時間と速さの関係が適用されます。電子レンジで、食品を調理する時も、Wという電力と時間の関係を計算しています。

もちろん、日常の生活で、私たちは、数式を思い浮かべながら使っているわけではありません。しかし、それは使う側だからであり、創ったり発想したり販売したりするとなると数学を意識せざるを得ません。数式を使わなくても数学的発想は必要になります。

ですから、ノートルダム女学院の数学の授業は、この数学的発想や数学的なものの見方・考え方を大切にしています。最近では、数学を社会現象に結びつける入試問題も出題されますが、そのとき最も重要なことは、その現象を生み出す数学的な発想の基礎を身につけているかです。

 

 

北島先生は、代数の授業において、計算と文章題を生徒と考えていく時に、計算方法や文章の解き方を教えるだけではなく、計算の仕組みや文章題を考える過程を生徒が自ら分析する授業を展開します。つまり、基礎をしっかり共有することをモットーとしています。

そのため、計算も文章題も、例題の解き方を教えるのではなく、どの計算や文章題にも通じる「分解」と「統合」の組み合わせを紐解く過程をリフレクションするアクティビティを授業に取り入れます。

それはピア・インストラクションというアクティビティです。ある哲学者が自分の顔は自分で見ることはできないから対話するのだと思考や精神についてたとえ話をしましたが、それは数学的思考でも同じです。

ピアとは仲間を意味し、インストラクションは教えることを意味しています。生徒と生徒が互いに教え合うアクティビティとしてピア・インストラクション(ペアワークはこのアクティビティの一種)を活用しています。このアクティビティの有効性については、すでに京都大学が、この方法をICTと組み合わせて作ったハーバード大学のマズール教授(物理学)を招いてセミナーを行っているぐらいです。

 

 

 

 

中村拓先生は、幾何を授業する時に、平面図形や立体図形を実際に描いたり組み立てたりするセカンド・ブレインというアクティビティを活用しています。これは手を使いながら考えるというアクティビティで、手は第二の脳と呼ばれているところから、私たちはそう呼んでいます。

PBL型授業のモデルは、いろいろあるのですが、MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボの教授陣が実践しているものが、21世紀型スキルに大きな影響を与えているといわれています。セカンド・ブレインは、MITメディアラボのレズニック教授の方法を参考にしています。

このように、ノートルダム女学院のPBL授業では、様々なアクティビティが活用されています。しかし、ふだん教師は使っていながらも、アクティビティとして自覚しないまま使っている場合も多いのです。

そこで、授業リサーチでどのようなアクティビティを使っているか私たち教師と学校法人ノートルダム女学院のリサーチャーが協働して観察しています。そして、そのアクティビティがどのような思考を触発するのか、分析もします。

 

 

 

そのリサーチャーは、思考の種類を、「記憶的思考」「論理的思考」「批判的思考」「創造的思考」という4つに分類しています。これは、ノートルダム女子大学の梶田叡一元学長が日本に紹介し、観点別評価や新学習指導要領の3つの学力に影響を与えているブルームのタキソノミーを参考にしています。

それを座標にして4つの象限に振り分け、どのアクティビティがどの象限で活用されているのかフィールドワークとインタビューを通して分析し共有しています。私たち教師と学校法人のリサーチャーが放課後互いのキャンパスに居ながらZoomを通してリフレクションすることもあります。

 

 

 

言うまでもなく、生徒は、記憶的思考に偏るのではなく、4つの思考をミックスすることにより、気づき、好奇心、モチベーション、創造性が触発されていきます。4つの思考のミックスの仕方とそれらの効果がどう関係しているかの検証については、いまのところ授業リサーチをしながら対話を進めている段階ですが、そのような対話をしていく過程で、授業の質が向上している手ごたえを感じています。

 

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