Learning in Depth 「LiD」(深く学ぶこと)の取り組み

 LiD とは、Learning in Depth の頭文字をとったもので、日本語では「深く学ぶこと」というような意味になります。

 21世紀の今、学校は新しい学習方法を生徒に提供する必要があります。つまり、生徒が興味を抱き、生徒自身の努力を必要とするような内容、テーマについて深く、創造的に、現実に叶ったやり方で探究する機会を提供する必要があります。LiDは、まさにそのような学習方法の一つです。
 LiDとは、カナダの教育学研究者であるキーラン・イーガン教授の発案によるもので、学習者のあらゆる活動と能力、具体的に言うと、読み書きの基礎、作文力、探究力、思考力、自信、学びに対する意欲などを強化するための画期的で、長期的な学習プロジェクトです。基礎となるコンセプトは単純です。学習者が少し難しめで、やりがいのある独自の研究テーマを選びます。例えば、進化、世界の歴史、鳥、惑星と恒星、偉人など。そして、卒業するまでそのテーマについて集中的に研究し続けます。つまり、中学1年生ならば、高校卒業までの6年という長い年月の間一つのテーマについて研究し続けることになります。研究のほとんどは家庭で行い、授業時間はクラスメイトと研究成果を分かち合ったり、新聞やプレゼンテーションのような「知識の産物」を創り出すことに集中します。学習者は、研究によって学んだことを毎週、英語と日本語でノートにまとめ、提出します。


 LiDの最終目的は、様々な分野において純粋に知識を集積できる専門家集団(コミュニティー)を育てることです。つまり、どのようにして気候変動の問題を解決するのか、どのようにしてより公平な経済システムを構築するのか、というような現代社会の様々な問題を解決するために、深い専門的な知識を駆使して協働作業にあたることができる専門家集団を育てることです。研究の途上で学習者は、一つの主題における深い知識に到達するという、何物にも代えがたい贈り物を手に入れるのです。彼らは、膨大な学問の力が成長し続けること、概念が相互に絡み合って進化していくこと、そして何よりも、真の学問の美しさと魅力を見出すことでしょう。
以下にLiDの利点を挙げます。

 

1.あらゆる学問的スキル(読む力、書く力、話す力、聴く力)がより総合的に、効果的に扱われます。LiDに全力で取り組む生徒は、大学の講義を受けても何の問題も感じないでしょう。

 

2.一般的な授業で扱われるよりはるかに深く、自分のテーマに関わることができます。指導者が学習者に期待する目標は「誰にも負けない」ということです。これを達成するために、生徒は一生懸命考え、学ばなければなりません。しかし、考えることは楽しいことだと感じるでしょう。なぜなら彼らは学んだことを作り出し、使い、分かち合うことができるからです。LiDが若者に与え続けてくれる大きな恵みは、難しい分野における高度な実践的知識です。例えば、典型的な大学院生と同じくらい昆虫について知っている16歳の高校生は、標準的なカリキュラムでは身に付かない知識を自分のものにしていると言えます。

 

3.生徒は、集めた情報を実践の場で適用し、他者と分かち合うばかりでなく、つなげ、関連付けることを学びます。一つのテーマを深く掘り下げることによって、なぜ学ぶのかという問いに答える理由と、学び続けることの意義付け、動機を獲得します。

 

4.生徒は研究方法を学びます。学びのきっかけをどのように追っていくのか、情報源をどのように見出すのか、信頼のおける情報と信頼のおけない情報をどのように区別するのか、どのような計画に従って学ぶのか、学びをどのように解釈し、まとめ、分析するのかを学びます。LiDは批判的思考の、またとない機会を提供してくれます。

 

5.自分の学びを他の生徒と分かち合いながら、生徒は二人一組で、またグループで、いかに協力し、協働するかを発見していきます。

 

6.生徒は自分の学びから、いかにして質の高い知識の産物(研究成果をまとめたもの)を創り出すか、全く新しいものを創るために創造力と知識をどのように使うか、実際に人々に教えるために、自らが発見したことをどのように使うかを見出します。LiDは学習者を教授者にしてくれるのです。

 

7.自分には学ぶ力があり、想像をはるかに超えて成長することができるということがわかると、生徒の自信は急激に大きく成長します。

 

8.生徒が出会い、格闘する知識の広さと深さの故に、生徒の知的、美的、人格的視野が広がります。知識自体がどのように形作られ、思考がどのように形成され、形を変えていくのかを理解していくでしょう。また、私たちが生きる社会や世界における、知の創造の重要性を認識するようになります。

 


 生徒はほとんど研究の報告を毎週提出するので、かなりの成果が実感できます。絞り込んだ興味深いテーマについて、50ページのレポートが溜まっていることを想像してみてください。それを材料として、研究論文を書いてみる、あるいは詳しいプレゼンテーションを作成することができると思われませんか?
 以下に、今年度生徒たちが自分のテーマとして選んだ研究課題の一部を挙げます。彼らが真剣で、挑戦的な、つまり、骨が折れそうだけれどやりがいのありそうなテーマを勇気を持って選んでいることがご理解いただけると思います。

 


 独自の研究にしっかり取り組んでいただくために、同一クラス内では、複数の生徒が同じテーマを選ぶことはなく、一人一人の生徒が別々のテーマに取り組んでいます。来年度も生徒がLiDに積極的に取り組み、その過程で学業面でも人格面でも大きく成長する機会を享受することができるよう、教師一同心から期待しています。

前のページに戻る