ノートルダム女学院の
教育と社会を結ぶ交差点

ノートルダム女学院のこれから

校長メッセージ

2021.04.05 配信

栗本 嘉子

Yoshiko Kurimoto

学校長

ノートルダム女学院高等学校26期卒業生
京都ノートルダム女子大学卒業
米国イリノイ大学(University of Illinois at Urbana-Champaign)文学修士
英国レディング大学(University of Reading)文学博士
京都大学、京都ノートルダム女子大学、神戸海星女子学院大学非常勤講師、オクスフォード・ブルクッス不大学客員講師、聖母女学院短期大学准教授を経て、2008年4月より母校中高へ。2012年4月学校長就任

あらためて浮き彫りとなった「私たちが目指すもの」
今回の経験から得た力を活かし、新たな挑戦を

《はじめに》
私たちが目指す学校の姿を、
新型コロナが浮き彫りにした

2020年3月2日から5月31日まで、新型コロナ感染予防対策として、政府から全国の小・中・高校に対して一斉休校の要請が出されました。突発的な要請ではありましたが、緊急事態です。私たちも、休校前・休校中・再開後と、約半年間にわたってさまざまな対応に奔走しました。
施策の一つひとつを選択・決断する際には、多くの逡巡がありました。また、その逡巡を乗り越えて実施する中では、多くの障壁も感じました。

私たちはなぜ、あえて難しいこの道を選んだのか?
私たちが取り組んでいるこの道は、本当に生徒のためになっているのか?

その自問自答の連続の果てに、私たちには「ある気づき」が生まれました。
ノートルダム女学院は、これまで何を大切にして教育を行ってきたのか?今後どんな教育の実現を目指そうとしているのか?
はからずもこのコロナ禍は、これまで私たち各人が胸に秘めていたそれぞれの思いを浮き彫りにし、議論・検討・決断・実施していく中では、ひとつの共同体としての「思い」にまとめあげてくれたのです。

私たちが経験したこの約半年間の逡巡と奮闘、そして理想とするノートルダムの未来にむけた意志と情熱を、共有した形で言語化しておきたい。このサイトは、その思いからつくり始めました。
教員や生徒たちが取り組んだ経緯や注いだ思いは、それぞれのレポートに譲ります。私はこのページを借りて、一つひとつの出来事を通じて見えてきた「ノートルダム女学院が目指す未来への指針」を記しておきます。

《全授業のオンライン化の向こうに》
どんなときでも、
生徒をひとりにはしない

私たちは、4月の新学期からは、すべての授業をオンラインで行うことを決断しました。ですがそれは、「急場しのぎの代替授業」ではありません。目指したのは、「家でオンラインで受けても教室での対面授業に劣らないクオリティの授業を提供する」ことでした。
その決断に至ったのは、私たちが普段から「どんなときにも生徒をひとりにはしない」という思いを大切にしてきたからです。休校期間中は、授業だけでなく、毎日のホームルームもオンラインで行いました。元に戻るまでの間は辛抱して緊急時を凌ごう!ではなく、たとえ休校中でも、普段と変わらずに授業を受けることができ、クラスメイトとつながっていることを実感できる毎日をつくる。
生徒をひとりにはしない、それが私たちの思いです。私たちはこれからも、そうした「つながり」が感じられる学校づくりをめざしていきます。
<関連ページ>
▶オンライン授業のこれから
【テーマ1】生徒をひとりにはさせない[中学1年生のクラスづくり・心と体の健康を願って]
【テーマ2】すべての教科をオンライン授業に[体育のオンライン化に取り組む]

「教授者と学習者」という
授業の概念にパラダイムシフトが起きた

授業の完全オンライン化を経て、私自身がいま予感しているのは、今後は授業のつくり方が変わるかもしれないという期待です。
ここ数年来、本校は従来の教室での授業にも改善を試みてきました。すなわち「教える者・授かる者」「1対多」という固定的な上下関係を超えたインタラクティブで水平的な関係性をつくるために、学習者が主体的に、また、対話的に学習に取り組むことができる環境づくりを目指してきたのです。いわゆる覚える、詰め込むといった従来の教室風景を脱却する試みです。そこに、授業のオンライン化が突然やってきた。
たとえば、教員がアプリの使い方をICTネイティブ世代の生徒に教わるといった状況はあたり前に起こります。また、多くの教員も、初めての挑戦とあってより理解しやすい授業や全員が参加できる授業をつくるため、生徒に授業の感想を聞き、生徒と一緒に「ああしよう、こうしてみたら」と話し合いました。
互いが教え、互いが授かり、ともにつくり上げる。従来の「教授者と学習者」という概念から脱却しようという動きに、このオンライン化が拍車をかける形で、一挙にパラダイムシフトが起きたわけです。授業のオンライ化を通じて得たこのエッセンスは、学校で行う授業にも必ず活かせるはずです。
<関連ページ>
▶オンライン授業のこれから
【テーマ3】教え教わり、教師と生徒でともに授業をつくる[ITスキルゼロ!生徒情報ゼロ!から始めた授業づくり]

教科の特性と
授業の構成要素を見つめ直す

「授業のつくり方」ついても、あらためて気づきがありました。
私たちは、オンラインか否かを問わず、ICTというツールを活用して授業の密度や効果を確かめ、さらに高めたかったのです。
ひと口に「授業のオンライン化」といっても、そのあり方はさまざまです。映像中心に組み立てた方がいい授業もあれば、ライブにディスカッションし合った方がいい授業もある。また、モニター越しよりも顔つきあわせながらの指導が効果的なら、オンライン化ありきで考えなくてもいいかもしれません。
では、密度や効果の高い授業をつくる鍵はどこにあるのか?
私は、2つの「見つめ直し」が必要だと考えています。
一つは、「教科の特性」の見つめ直すこと。
二つめは、「授業1コマの構成要素」を見つめ直すこと、です。

<「教科の特性」の見つめ直す>

そもそも、その教科学習を通じて生徒に身につけさせたい知識や力は何か?それはどう鍛えれば伸びるのか?逆につまずきやすいところはどこで、それを防ぐにはどんなサポートが必要か?これを「単元レベル」にまでブレイクダウンし、ひも解くことでヒントが見つかります。

<「授業1コマの構成要素」を見つめ直す>

普段の授業1コマは50分です。この50分間の中で、教員は何をし、生徒に何を行わせ、それらをどう時間配分しているのか?今日習う概要を解説する時間、生徒が自分で調べる時間、知識定着のために反復練習する時間、ディスカッションする時間。授業で大切にすべきボディーの部分はどこか? どこにリスクがありそうか?そういう視点から50分を分解していく作業です。

この二つの見つめ直しを経て、ふさわしい成果が見込めるICTツールがあるならば使う、なければ無理はしない。そうして授業を最適化していくことが、密度や効果の高い授業づくりにつながると考えます。

今回、各教員たちは「初めてのオンライン授業づくり」にあたって、小さな挑戦をし続けました。一つひとつは小さいながらも、次につながる大きな財産が残ったと思います。
<関連ページ>
▶オンライン授業のこれから
【テーマ4】ICTを最適に活用し、理想とする授業の実現へ[“緊急対応”から見えてきたこれからのICT活用法]

《生徒会・クラブ活動を通じて育みたい力とは?》
大会や発表会は中止になっても、
自主性や協働性、強い心や生み出す力が育つ

今年のクラブ活動の大会やコンクールの多くは、中止となりました。半年1年がかりで準備した生徒の気持ちを考えれば、「残念」などと言う言葉は軽すぎます。するりと目標が消え失せ、クラブ活動をする意義や続けることへの疑念を感じた瞬間も、少なからずあったはずです。
それでも、日を追うにしたがって、心が温かくなる知らせが入り始めました。各クラブ内で自主的に活動を始めたのです。私は、オーケストラクラブがつくったオンライン演奏会の映像を見るたびに、涙しました。文化祭実行委員が文化祭をオンラインで行うと聞いた時には、思わず生徒に「そんなの本当にできるの?」と聞いたほどです。「先生、とにかく私たちにさせて下さい!」と返す誇らしげな笑顔が忘れられません。いずれも、生徒たちが自ら企画し、自分たちの手でつくり上げました。
大会、コンクール、発表会などは、「ハレの場」です。モチベーションを高め、やる気を育ててくれる強力な装置ですから、もちろんあった方がいい。ですが、もしもそれが消え失せてしまったとしても・・・。それでもクラブ活動や生徒会活動は、生徒をひと回りふた回りも、大きく強くします。
仲間と同じ時間を過ごす中で、周りに支えられている自分に気づく。誰かのために何ができるのかを探す。ぶつかり合いながら助け合いながら、ともに考えて行動し、何かをつくりあげていく。そうした自主性や協働性、諦めない心や生み出す心を育てます。
いまさらながらにその原点を、生徒たちから教えてもらった思いがしています。
<関連ページ>
▶クラブ&生徒会活動・学校行事のこれから
【テーマ1】生徒会活動やクラブ活動は、仲間を思いやる心と協働性を育む場[いま自分は、誰かのために、何ができるのか?]
【テーマ2】「代わり」ではなく「変える」。“オンライン文化祭“という挑戦[これまでにはない”新しい何か“を生み出す]

▶体験型・実践型学習
【テーマ3】一人ひとりが輝ける場としての舞台製作[他者とぶつかりながらも、自分にできること・すべきことを見つける]

《私たちがめざす教育の実現に向けて》
実践的ICT運用力を身につけて
新たな思考回路を獲得

一斉休校を経て、私たちは「新しいノートルダムの力」を得ました。
その力とは、授業の完全オンライン化で身につけた、従来とは次元の異なる実践的なICT運用力です。教員だけの話ではありません。生徒たちも新しい授業スタイルに対応できる力を身につけています。この力によって、想像しなかったステージも見えてきました。私たちのなかに「新たな思考回路」が生まれたのです。従来の概念に縛られないこの思考回路を使えば、これまでにはない指導方法が生み出せる、そう確信しています。

<新たな思考回路による今後の取り組み目標>

  • ①ICTのメリットを活かした密度の高い授業づくり
  • ②日常的な国際学習環境の整備
  • ③生徒一人ひとりに応じた「パーソナル指導」への挑戦

<関連ページ>
▶オンライン授業のこれから
【テーマ4】ICTを最適に活用し、理想とする授業の実現へ[“緊急対応”から見えてきたこれからのICT活用法]

▶体験型・実践型学習
【テーマ1】留学中の生徒を帰国させる責任[不安を乗り越え大きな経験を得た生徒たちの奮闘]
【テーマ2】海外にいかなくても「本気になれる」仕掛けづくり[One-time eventからSustainable programへ]

ノートルダムのミッションにもとづき、
「4つのC」をもつ「地球市民」を育てる

私たちの目指す教育は、ノートルダムのミッション・コミットメントにもとづいています。

  • 「尊ぶ」
    人と自分、物と自然の全てに敬意を持って向き合います。
  • 「対話する」
    心をこめて聴き、かかわりから学び、真理を探究します。
  • 「共感する」
    心を開き、人や時代の要請に敏感な感性を持ちます。
  • 「行動する」
    対話し、決断し、責任を持って人々の幸せと世界平和のために行動します。

このミッション・コミットメントに従い、これからの世界を担う人に求められるスキル「4つのC」を大切にした教育を行っています。

  • Communication
    コミュニケーション力
  • Critical thinking
    批判的思考と問題解決能力
  • Collaboration
    協働的問題解決能力
  • Creativity
    創造性とイノベーション

◆ノートルダム女学院が目指す教育の概念図

ノートルダム女学院が育てたいのは、グローバルな視野で神から与えられた自分の使命を生きる「地球市民」です。
高い偏差値や難易度の高い大学への合格だけを目指しているのではありません。もちろん一定以上の学力とその定着は求めますし、そのための徹底指導も行います。
しかし、それと同じ、いやそれ以上の熱量を持って、内面を磨く指導も行っています。学校に集い、先生や仲間と語り合い、ともに考え、行動し、何かを成し遂げていく。そうして過ごす日々を通じて、身につけてほしい力を育むことを何よりも大切にしています。
その価値観をもつ私たちにとっては、今回の休校は大きな試練でした。基盤となる学校を開けない、そこに共同体をつくれなかったのですから。空になった校舎を歩いて感じたこと—それは、皆のからだがここにあってこそ、触れ合って、影響を受け合って、笑い合ってこその共同体だったのだと。そのことをあらためて感じたのです。
その逆境にあってもなお、教員はいつもの授業や学校生活を生徒に届けようと、互いに聞きあい教え合い、知恵を出し合いながら踏ん張りました。生徒たちも、コロナや休校による不都合や不条理に負けることなく、いまの自分にできることを探し、気づき、自発的な取り組みを起こしました。そうした「ノートルダムらしさ」が、より鮮明に浮かび上がった1年間でした。

私たちはこれからも、今年の経験を経て獲得した新しい力を携えつつ、新たな課題にも挑戦しつつ。
ノートルダム女学院が掲げる理想に向かって、変えていくべきもの、変えてはならないものの一つずつを確かめ合いながら、私たちらしい学校づくりに真摯に取り組んでいきます。

《終わりに》

この環境下、私たちの学校運営に対して、保護者の皆さまをはじめ、学校運営をサポートして頂いている企業や教育関係者の皆さま、地域の皆さまから、多くのご理解とご協力、そして身に余る励ましの言葉をいただきました。
末筆とはなりましたが、そのご厚意に心より感謝し、お礼を申し上げます。
本当に、ありがとうございました。

2020年12月
ノートルダム女学院 中学高等学校
学校長 栗本 嘉子