ノートルダム女学院の
教育と社会を結ぶ交差点

オンライン授業のこれから

テーマ3

教え教わり、教師と生徒で
ともに授業をつくる

ITスキルゼロ!生徒情報ゼロ!から始めた授業づくり

2021.04.05 配信

CASE 1

LINEすら未経験の英語教師の挑戦

岸 恵美

Emi Kishi

英語科

小中高大とノートルダムで学び、卒業後すぐから今日まで英語科の教員として働かせていただいています。生徒からPOWERをもらい、毎日をワクワクした気持ちで過ごしています。口癖は、「女は根性!」、生徒に伝えたいことは、“Where there’s a will, there’s a way.”です。

Wi-Fi設定、アプリの使い方、映像制作etc.
短期集中で“走りながら学んだ”オンライン授業

すべての教員が初めて取り組む
1コマまるごとのオンライン授業

ノートルダム女学院では、4月からの授業はすべてオンライン化することを決めた。4月7日、職員全員を講堂に集めた異例の職員会議で、教員はその決定を知った。その翌日には、第1回のオンライン模擬授業が開催されている(第2回は4月13日開催)。
比較的早期からICTを活用した授業づくりに取り組んできたノートルダム女学院だが、1コマすべてをオンラインで行った授業は、その必然もなかったため、これまでにはない。すべての教員が一斉に、初めてのオンライン授業づくりに取り組むこととなった。
しかしながら、教員全員が高いレベルのITリテラシーを均質に持っているわけではない。一方でそうした教員からすれば、教師としての誇りにかけても、パソコンが苦手だからと授業を止めることはしたくない。4月7日の発表以降、それぞれのITスキルレベルや授業環境に応じた試行錯誤が繰り広げられた。

動画の撮影も配信も初めて
自宅の環境整備から四苦八苦

自らを「学校一のIT音痴」と認める岸は、照れ笑いしながらその悪戦苦闘ぶりを話す。
「私、これまでLINEすら使ったことがなかったんですよ。それが突然Wi-Fiだとか、Google ClassroomだとかZoomだとか・・・。飛び交う言葉のほとんどが“呪文”でした(笑)」。
もちろん、これまでも授業で使う資料やプリントはパソコンでつくっていたので、タイピングなどの基本操作でつまずくことはなかった。
「最初の壁は、通信です。自宅のWi-Fiがどうなっているのか知りませんでした。他の先生の中には、4月中旬には自宅からの授業も始める先生もいましたが、私は環境を整えることすら間に合わない。おまけに家にあるパソコンは、作成した文書をpdfに描きだすこともできない“骨董品”。絶望的な気分でした。(笑)」。
途方に暮れた岸は、ICTに詳しい教頭・鳥山に泣きついた。
「それからしばらくは、鳥山教頭を“ほぼ独り占め”です。その教頭から最初に出された指示は、『まず、スマホにLINEを入れましょう』でした(笑)」。
機器の接続方法を教えるにしても、メールや電話で説明しただけでは、何ひとつ伝わらない。せめてLINEのビデオ通話で、家にある実物を見て、確認して、説明しながらならまだ何とかなる。そう判断した教頭のアドバイスだった。

開始当初は、学校で授業実施
先生同士でアプリの使い方を練習

自宅の環境が整ったのはゴールデンウィーク前だった。オンライン授業が始まってからそれまでの約2週間、岸は、自宅からではなく、学校で授業を行った。岸にとっては、むしろその方が好都合だった。次なる壁は、Google ClassroomやZoomなどのアプリ。さまざまな機能やその扱い方がわからない。
「教師も出勤を自粛せねばならないほど、日に日に状況は悪化していました。その時点では、今のうちにある程度使えるようになっておかないと、自宅でひとりでサクサク授業できる自信なんてありません。残された時間を使って、いろんな先生にめいっぱい聞きまくりましたよ。Google ClassroomやGoogle Meetは初めて使う先生も多かったので、ペアになって先生役と生徒役を入れ替えながら、何度も繰り返し練習しました」。

当時は、パソコンを買い求める人が多く、すぐに新しいパソコンを買うこともできない状況。自宅の環境が整ってからは、学校の大きなパソコンを借りて帰って自宅での授業づくりをスタート。そうこうするうちに、学校からChromebookが支給され、映像制作などもスムーズにできるようになった。

大切な中1と高3の英語の授業
動画を配信する授業スタイルを選択

最終的に岸の授業スタイルは、自分で制作した授業映像をGoogle Classroomで配信する形へと落ち着いた。
「私が担当するのは、中学1年生のクラスと高校3年生のクラスです。実は、初回の顔合わせ授業は、Google Meetを使って実施したのですが、ご家庭の通信環境のせいか、授業に入れない生徒がそれぞれ2名ずつ出てしまいました。中学1年生は、英語を本格的に学び始める年、高校3年生は大学受験を控えた年。とりわけていねいな指導が必要なクラスですから、生徒が授業に入れない事態は看過できません。通信環境に左右されるリスクがあるリアルタイムでの授業はやめました。映像をつくるという新たな壁は増えるのですが、このやり方ならもしトラブルが起きても、授業以外の時間に何回でも見直してもらえますからね」。

映像制作はすべて手づくり
生徒の見やすさ、学びやすさを優先

1コマの授業で使う映像は、1本10分程度のものを1~2本用意した。前日までに撮影・編集を終えた映像データと資料のpdfをアップロードし、授業時間に合わせて配信予約する。時間になれば、生徒一人ひとりに自動配信され、同時にGmailで生徒と自分に配信完了の通知が届く。慣れていない初期には、思わぬ配信ミスもした。
「配信する映像を間違えたんです!撮影の際、テイク1で“Hi”とだけ言って撮影を中断。その後に正しい映像テイク2を撮り直しました。ですが、間違えてテイク1を配信設定してしまい…。授業が始まるとすぐに、生徒から「先生、動画変!」と指摘されて。慌ててテイク2を配信し直しました。今でこそ生徒とも笑って話せますが、そのときは、やってしまった…と落ち込みました」。
映像には、その日習得する文法や構文、語彙、発音などを解説するパートを中心に、課題を説明するパートも収録してある。課題提出期限は、授業から概ね2日後の17時と設定した。
「映像は、まったくの手づくりです。解説用ボードも、B4サイズのコピー用紙に、たとえば『It is a pen.』といったその日に教えるセンテンスなどを大きく書き、それを手に持ちながら解説します。生徒に見やすいように厚めの画用紙を裏貼りし、補強して撮影しまた。映像のいいところは、つくる側も何度でも撮り直せるところ。ある程度は納得できた映像で授業できます」。

課題は、写真に撮って提出
50人分のチェックで肩パキパキ

50分間の授業は、1~2本の映像を見て、残った時間で課題に取り組む。その間の岸は、Google Classroomを立ち上げ、生徒からチャットで送られてくる解説や課題に関する質問に答え、通信の不具合などにも対応した。
授業終了後は、課題のチェックだ。生徒には、課題シートを写真に撮って送ってもらった。
「授業時間内で提出する生徒から締切ギリギリの生徒まで、送られてくるタイミングはバラバラです。すき間時間も使いながら来た順番にチェックして、『ここのスペルが間違っていますよ』などのコメントをつけて戻します。なかなかの作業ボリュームで、中1と高3の約50人分。毎回ひと通り終わると、肩も首がパキパキに固まって。そのまま接骨院に駆け込んだこともありました」。

先生だけではなく、生徒も大変!
初めてだらけの授業を一緒に作った

岸は、オンライン授業を行った2カ月を振り返ってこう話す。
「私もさることながら、実は生徒の方が大変だったと思います。たとえば、中学1年生にとっては、初めての本格的な英語授業、初めて取り組む『中学校の課題』です。授業には教科書だけで3冊、ノートも単語用・授業用・問題用の3冊を使います。それだけでもわかりにくい。例年の授業でも、課題についてかなり細かく説明したつもりでも、何をすればいいのかわからない生徒もいます。ましてや今年は、映像の説明だけですから。相当苦労したはずです」。
「一方で今年の中学1年生は、これまでになく英文をタイピングのスピードが速いんですよ。オンライン授業の結果、短期集中でタイピング力がついたんです。ネイティブのBurgess先生とペアで授業を行うTeam Teaching(TT)の授業もありましたが、生徒の中にはネイティブの先生からの英文コメントに対して、英文でメッセージを返信してきた生徒もいました。うれしかったですよ。
例年とは違う環境ながらも、よくぞここまで成長したくれたなと思います。そうした姿を見ると、私自身も、もっと授業のつくり方を考えないといけないなと思います」。

ネイティブの先生からの英文コメントに、生徒も英文で返信