ノートルダム女学院の
教育と社会を結ぶ交差点

オンライン授業のこれから

テーマ3

教え教わり、教師と生徒で
ともに授業をつくる

ITスキルゼロ!生徒情報ゼロ!から始めた授業づくり

2021.04.05 配信

CASE 2

4月着任 生徒の顔も知らない数学教師の挑戦

薄羽 邦弘

Kunihiro Ussuba

数学科

栃木県の私立高校で3年にわたって数学の教鞭をとる。2020年4月にノートルダム女学院に着任し、中学3年の数学、高校の数IA・数Bを担当。指導の理想は、生徒が自分で勉強し、教員の力を極力借りることなく、自分自身で学力を上げていくこと。そのために、授業など普段の指導を通して、まずは、基礎と学習の習慣化や、数学に取り組む気持ちなどをていねいに教えている。

数学の科目特性を考えて、映像授業を選択
生徒の声を直接聞くことが、質を高める近道

着実に育っていた環境とリテラシー
だから、緊急事態にも対応できた

薄羽は、全国の学校が一斉休校した2020年の春、栃木県の私立高校からノートルダム女学院に着任してきた。学校の様子も、他の先生のことも、さらには生徒の顔も名前すら知らない混沌の中で、オンラインで授業を始めねばならなかった。
「他の学校の環境を知る教師の眼からみれば、この学校のICT環境はかなり進んでいると思います。教室には必ずプロジェクターがあって、生徒には1人1台のChromebookまたはiPadが配られている。生徒は授業のプレゼンテーションやディスカッション、課題のレポートづくりなどで日常的にそれらに触っている。オンライン授業に対応できる環境と、先生・生徒ともに基本的なリテラシーがあった。だから、ここまで短期間であってもすぐに対応・スタートできたと思います」。

学校での数学の授業の様子

自分で自分の理解を深める数学
反復学習できる映像授業がフィット

「私は、中学3年、高校1年・2年の数学を担当しています。各学年ともに、学年始まりの春は計算がメインとなる単元が多い。ならば、Zoomなどを使ったリアルタイムの授業よりも、映像授業の方が向いているだろうと考えました」。

薄羽がそう考えたのには、次のような背景がある。
たとえば社会の授業なら、“コンビニのレジ袋の有料化はごみの削減につながるか?といったディスカッションがある。国語なら、文章を読んで“この時の主人公はどんな気持ちだったか?”といった感想を語る時間がある。いずれも、問われたその場で自分の意見を述べ、他の生徒の発言も聞き、それに触発されて考え直し、再び語り合う。「生徒同士がつくるその場・その時」に価値があり、それが授業の本質になる。つまり、リアルタイムで授業する必然性が高い科目だ。
一方の数学、特に計算は事情が異なる。計算力を高めるには、解にたどり着くまでの理論立てや道筋を理解・納得し、その手順に習熟することが重要になる。どこまですんなりと理解できるか、裏返せば、どこでつまずくかは一人ひとり違う。必要なのは、「生徒同士がつくるその場・その時」ではなく、「自分で自分を深めていく自分の時間」だ。
であれば、リアルタイムの授業より、お手本として示された計算の手順をしっかりと追いながら、わからなかったら再び戻って学習できる映像授業のほうが向いている。

生徒に授業映像の感想を聞き、
細かな改善を積み重ねていく

薄羽がつくった授業の映像は、回を重ねるごとに進化した。
「最初は、ホワイトボードを使って収録しました。因数分解なら、与えられた式をどうやって積の形に整理するか、などの式変形の仕方などです。「x」や「y」など複数文字がある複雑なものも扱うため、考える手順となる式をすべて書き出したボードを撮影し、式を1行ごとになぞりながら解説する進め方でした。

オンライン授業で使った手書きノートアプリ

「生徒に意見を聞いてみると、まず指摘されたのは、ホワイトボードに光が反射して見づらいときがある点です。また、最初から全部の式を書いたものを見せてしまうと、かえって因数を括る手順がわかりにくくなってしまう点も気になっていました。そこで、ちょうど学校からiPadが支給されたこともあり、Apple Pencilを購入し、手書きノートアプリも入れて、一つひとつの式を手書きしながら解説も添える、という流れの授業映像に変更しました」。

一緒に授業をつくる思いがあれば、
オンラインだけでも絆は生まれる

授業映像の質を高めるために、Google Classroomのアンケート機能を使って、生徒から率直な感想をもらった。同時に、アプリの使い方など、薄羽自身がよくわからないことも生徒に直接教えてもらった。
「休校期間中、生徒のなかにはGoogle Classroom やZoomを使って、自分たちで独自に勉強会を開催した生徒もいました。私よりも使い方を知っていたりするんですよね。初期には、生徒から『課題を提出したいので、Google Classroomに部屋をつくってください』と頼まれたんですが、つくり方がわからない。仕方ないので、そのままの流れで生徒に教えてもらいました(笑)」。
生徒の顔も名前もわからないままに、パソコンのモニター越しだけで新学年の授業を始めざるを得なかった新任教師にとっては、そんな日常的なやりとりもまた、互いを理解しあうための貴重な時間になっていた。

在校生VOICE

  • 伊藤 小梅

    中学3年生
    グローバル英語コース

    日本人の先生とネイティブの先生がペアで授業をするTTの授業は、授業回数が多いこともあり、私たち生徒もすぐにオンライン授業に慣れて、グループワークでの意見交換など普段通りの勉強ができたと思います。最初のころ少し戸惑ったのは、Google Classroomでのやり取りです。先生からの連絡事項も、生徒からの課題の提出もすべてGoogle Classroom経由なので、「何かお知らせは来ていないかな?」と常にチェックする習慣がつきました。

  • 吉岡 真凛

    中学3年生
    STE@M探究コース

    オンライン授業では、通常の授業よりもわかりやすいと感じるものもありました。それは数学の証明問題です。先生がスライドを使って、まるで紙芝居のようにわかりやすく説明してくれたので、「結論」を導き出すステップをしっかり理解できました。オンライン授業が始まった当初は、音が聞こえなかったり、画面が固まったり、不具合も多かったですが、先生に相談すると、毎回授業後に画面収録した映像も配信してくださるようになり、安心でした。

  • 野々村 紗帆

    高校2年生
    プレップ総合コース

    オンライン授業では対面授業よりも授業のスピードが速く、ノートをまとめるのが大変でした。また、私の自宅はWi-Fi環境があまりよくなく、Zoomの授業に参加できないこともありました。勉強が遅れてしまうのではないかと不安でしたが、しばらくすると、授業で使用したスライドやZoomの録画を授業後に送ってくださるようになり、不安は改善されました。古典の授業ではもう一歩踏み込んで、学んだ内容を授業後に生徒同士で協力してまとめる取り組みを実施。高いレベルの学びにつながりました。オンライン授業では自分自身で聞いてまとめることが不可欠。授業内容を早く深く理解する力が身についたと思います。

  • 片山 真希

    高校2年生
    プレップ総合コース

    ZoomやGoogle Meetによる授業は、私たち生徒の反応が見えにくく、進度が非常に速かったです。レポートなどの課題を出す先生も多く、締め切りもその日いっぱいと、通常授業とは比にならないほどの忙しさ。ほどなく学校から「オンライン授業に関するアンケート」が実施され、その後は課題の量や期日も、多少考慮されるようになりました。また、当初はオンライン授業で黒板を使う先生もいましたが、見づらいとの声を受けて方針を変更。スライドを使った、見やすくわかりやすい授業に改善されました。ただ、オンライン授業中は生徒が発言しにくい雰囲気があり、聞けない疑問もありました。そこは改善点だと思います。