ノートルダム女学院の
教育と社会を結ぶ交差点

オンライン授業のこれから

テーマ4

ICTを最適に活用し、
理想とする授業の実現へ

“緊急対応”から見えてきたこれからのICT活用法

2021.04.05 配信

CASE 1

●授業を担当した教員の眼
<オンライン授業に取り組んだ中で見えてきたこと>

霜田 慶介

Keisuke Shimoda

社会科
ノートルダム女学院教育開発室長

高校2年生、3年生の社会(倫理、政治経済)を担当。教育開発室長として、ノートルダム女学院が標榜する「思考力教育」導入のけん引役を担う。

ノートルダム流の指導の実現を目指すには、
オンライン授業に可能性とジレンマが同居する

たとえ見切り発車であったとしても、
各教員が次につながる“何か”を得た

突然の全国一斉休校に直面し、ノートルダム女学院は「学びを止めない」ことを最優先し、新学年が始まる4月からは、全科目・全授業をオンライン化するという高いハードルに挑んだ。その挑戦の陣頭で指揮を執ったのが、教育開発室長・霜田である。
「今回は、まさに『待ったなし』。そういう意味では、見切り発車との誹りを受けたとしても仕方ありません。ですが、だからこそ早い段階で、体育や家庭科などの実技系科目も含めた全科目・全授業のオンライン化を実現できました」。
「もちろん、教師も生徒もきちんと対応できる力をつけてから始められるなら、そのほうがいいに決まっています。しかし、それでは結局時間がかかる。今回は、そのためにオンライン授業のスタートが遅れた学校も多かったと聞いています。ともあれ、私たちは“それでもあえて前に進む”と判断しました」。
この判断の是非は、人によって分かれるだろう。またその功罪の検証も、今後に委ねねばならない。だが、たとえそうであっても、挑戦してみたからこそ、各教員が次につながる“何か”を得ることができたオンライン授業への挑戦だった。

●<社会科:霜田慶介>教室の授業より活性化したディスカッション

社会科では、「若者の政治的無関心」といった社会課題について、生徒全員でディスカッションする授業がよく行われる。その際には、一般的には「KJ法」と呼ばれる手法が使われることが多い。自分の意見を付箋に書きこみ、全員がそれを模造紙に貼りこんでいく。その模造紙を俯瞰しながら、課題に対してどんな種類の意見があり、それらはどう分類でき、どう関連しあっているのか?などをまとめていく。
「自分の意見を述べ、同時に自分とは異なる意見も知る。そうした多様な価値観に触れながら、“自分が譲ることができるのはどこで、譲れないと感じることは何なのか?”も考えつつ、一緒に解決策を模索する。こうした授業は、まさに社会科授業の本質です」。
「休校で生徒がひとつの教室に集まることができなければ、そうした授業はできないのかといえば違います。たとえば、Google for Educationの中には、Jamboardというアプリがあります。これは、まさにそうした授業をオンライン上でするためのものです。今回の休校中、私はこのアプリをしばしば使いました。私もそうですが、学校再開後の授業でもこのアプリを使っている教員は多いと思います」。

Jamboardを使った社会科の授業

◆発言機会が均等になり、発言の少ない生徒も発言しやすい

「普段の教室では発言が少ない生徒でも、オンライン授業なら、他の生徒と変わりなくチャットで意見を返してくる傾向がみられました。つまり、オンラインという手法であれば、教室という場の空気に流されることなく、等しく発言できる環境が整いやすいと思います」。

◆時間のロスが少なく、議論が沸点に達するまでが早い

「みんなが一斉に書いて貼りこむため、教室で行うよりもスピーディに進めることができ、授業時間のロスが少ない。そのぶん、議論が盛り上がるまでの時間、議論が煮詰まって沸点に達するまでが早いと感じました」。

◆一つの『テーマ』に対しては、10分程度が限界

「生徒は、パソコンの前で画面だけを頼りに参加する“動きのない授業”です。ともすれば受け身になりがちで、集中力も保ちにくい。経験的には、盛り上がる時間が早いこともあって、一つの『テーマ』に使う時間は10分程度が適切。裏返せば、それが限界です」。

◆“間延びしない議論“の鍵は、「テーマ」の設定とシナリオづくり

「これらは、同時に教員に対して“議論が間延びしない工夫”を施す力量を求めることも示しています。まず、どんな『テーマ』を設定するか。大き過ぎず小さ過ぎず、難し過ぎず簡単過ぎず、そのバランスの吟味が必要です。そしてその適切なテーマを考えるには、10分という時間を意識しながら、どんな意見を引き出して、どんな対立軸をつくれば、より議論を盛り上げることができるか?を、教員自体がシミュレーションすることが必要です」。

●<英語科:星野 恭子>同じ教室にいなくとも、「会話・対話」時間は確保できる

ノートルダム女学院グローバル英語コースで大事にしてきていることの一つは、「世界中で起こっていることに対する自分の意見を持ち、プレゼンや意見交換を通して視野を広げ、さまざまな価値観を尊重しあうこと」。そのためには、語彙や発音、文法、読解といった四技能「読む・書く・聞く・話す」の習熟は不可欠だ。
※【テーマ1】生徒をひとりにはさせない●CASE 1<中学1年生のクラスづくり>

◆高学年になるほど、会話・対話できる時間の確保を

「指導する側も、はじめは大変です。授業動画をつくる方法を選ばれた先生たちも、具体的に何をどうすればいいのかわからないし、カメラの位置や黒板の使い方、説明の仕方なども対面授業とは違う注意が必要です。生徒にとっては自分のペースで何度も視聴することもできるのが大きな利点です。
また、毎日の課題は、音声ファイルの提出も含めほぼ普段通りにできました。一方で、毎回Zoomでの授業を実施していた先生も多いです。私自身もZoom派でしたが、教員が話す時間は最小限にしてブレイクアウトルームを使えば、いつもの授業のようにペアワークやグループワークを中心に、生徒が考えて話す時間を持つことができたのはよかったです」。
「途中で回線が切れてしまったり、音声がとぎれたりというトラブルが起こる生徒もある中で、教室での授業のように各グループの進行具合を見ながらヒントをだしたり、全体の様子を把握するといったことはできませんでした。まだまだ課題は残しながらですが、少なくとも教室以外でも“話す絶対量”をあげることができる可能性は感じています」。

ネイティブ教員とバイリンガル教員がペアでグループワークを指導するTeam Teaching(TT)授業

●<数学科:薄羽邦弘>理解度に応じたパーソナルな指導も視野に入った

数学科の薄羽は、オンライン授業では、おもに映像を中心にした授業を組み立てた。
※【テーマ3】教え教わり、教師と生徒でともに授業をつくる
●CASE 2<4月着任 生徒の顔も知らない数学教師の挑戦> 参照 

◆解説映像を制作・ストックすれば、理解度に応じた自習が可能

「授業を映像中心に組み立てたのは、数学は“生徒それぞれでつまずくポイントが異なる”“みんなで議論することより、自分で理解を深めていくこと大切”という科目特性を考えた結果です。オンライン授業を経て、今回つくったような解説映像をさらに制作・ストックしていけば、生徒が自分の学習伸度に合わせて、最適な解説映像を選んで学べる可能性があります。実はすでに生徒からも、問題集の難しい問題の解説映像をつくってほしいというリクエストももらっています」。

◆希望者には、夏休みの課題として難易度の高い出題も

「学校再開後も、Google Classroomを使った個別指導を行っています。生徒一人ひとりが自分の目標・取り組み課題、克服したい苦手分野などを書き込んで、いつでも一対一の相談を受けられるようにしています。夏休みの宿題にも、この仕組みを利用しました。全員に課す一律の宿題とは別に、希望する生徒には、難易度が高めの問題を1週間に1度4問程度配信しています。この4問すべてをやる義務もありません。生徒自身が自分にとって必要だと感じる問題に取り組み、提出されれば個別にアドバイスをしています。生徒の負荷が大きくなりすぎないように見極めながら、一人ひとりの自主性、理解度や学習伸度に合わせた運用を心掛けています」。

夏休み期間用の数学の課題チェック表