ノートルダム女学院の
教育と社会を結ぶ交差点

オンライン授業のこれから

テーマ4

ICTを最適に活用し、
理想とする授業の実現へ

“緊急対応”から見えてきたこれからのICT活用法

2021.04.05 配信

CASE 2

●教育開発室長の眼
<私たちは、これからICTをどう活用していくのか?>

霜田 慶介

Keisuke Shimoda

社会科
ノートルダム女学院教育開発室長

高校2年生、3年生の社会(倫理、政治経済)を担当。教育開発室長として、ノートルダム女学院が標榜する「思考力教育」導入のけん引役を担う。

ICT・オンライン授業から学ぶこと
理想とする授業にICTをどう活用できるか?

リアルの授業にしかできないことは、
むりやりオンライン化する必要はない

約2カ月にわたってオンライン授業を実施し、今後検討すべき課題も浮き彫りとなった。
教育開発室長・霜田は語る。
「今回の“見切り発車”では、まず『どうすれば学びを止めることなく、オンライン化できるか?』という観点から、それを実現するための最短距離を選びました。そうでなければことが進まず、間に合いませんから。しかし本来は、その順番は間違っています。優先すべきは『教育のオンライン化・ICT化』ではありません。『どうすれば、ノートルダム女学院が理想とする教育を実現できるのか?』であり、『そのために有力なツールとなるICTには、どんな活用の仕方があるのか?』を考えることです。今回オンライン授業にあたった教員も、従来の対面授業と、オンライン授業という新しい指導方法の間で、ジレンマを感じた場面は多かったはずです」。

●<英語科:岸 恵美>オンラインでは限界がある、中学1年の「初めての英語」

【テーマ3】教え教わり、教師と生徒でともに授業をつくる●CASE 1<LINEすら未経験の英語教師の挑戦> 参照

◆スペル、発音etc. 語彙力は、日々の積み重ねでしか定着しない

中学1年生に「初めての英語」を教えるのは、通常の授業でもむずかしい。なかでも語彙(スペル、発音、品詞、意味など)を定着・蓄積させることは、英語学習のすべての基礎となる。通常の授業であれば、毎日の授業の冒頭10分ぐらいで小テストを実施し、あたかも幼児期に親から言葉を学んだように、音を真似ながら手で書きながら定着させていく。
また、英語の音(英語独特の母音・子音など)を習得するためには、口のカタチや舌の置き方・動き方などを見せて、自分の口で何度も試して発音させる時間をつくる。
「これらをオンライン授業で指導するのは、極めて難易度が高いです。単語テストは、プリントを配布すればできそうなものですが、目が届く近さで毎日行う小テストは緊張感も違うし、定着度にも差が出ます。今回も結局、休校期間が終わってから期末テストまでの2カ月あまり、何百個かの単語を覚え直すことになりました。生徒はきつかったと思います」。

英語の発音をトレーニングするフォニックスの授業。オンライン授業用に映像を制作

●<理科:村田 素子>探究心を育むフィールドワークなどの実践に課題が残る

【テーマ1】生徒をひとりにはさせない●CASE 1<中学1年生のクラスづくり> 参照
村田が担当するSTE@M探究コースの指導方法の特徴は、自然や生物、あるいは物理や化学といった理系科目への学習意欲や学習成果を高めるために、まずは、『なぜ?』『どうして?』といった興味のきっかけとなる『?』を、少しでも多く深くつくることにある。興味のエネルギーが大きければ大きいほど、生徒は新しい知識を自ら求め、新たな知識を得る喜びを知り、自分で探究していける自走力を身につけることができる。
残念ながら休校期間中は、いわゆる“フィールドワーク”は実施できていない。毎年、年度初めは今後の学び方をオリエンテーションする授業が中心となり、オンライン授業でカバーしやすかったのは、不幸中の幸いといっていい。

今年も、鴨川の水質調査を行う授業などは実施した

「それでも6~7月は、ガスバーナーの点火などの個人でできる実験や、3人ずつのチームに分けてパスタでブリッジをつくり、どのチームの橋の強度が高いか綺麗かといったコンペティション形式の授業も行いました。2学期以降は、例年なら野外学習などが増えていきます。いずれにしても、こうした『体験型授業』をオンライン授業で置き換えることは不可能ですし、それは必ずしも、本来私たちがつくりたい授業の姿ではないと感じています」。

パスタで橋をつくり、強度やデザイン性を競う「パスタブリッジ」の授業

リアルとオンラインの
ハイブリッド型の授業デザインを

今回の経験を踏まえ、今後の授業づくりについて、教育開発室長・霜田は語る。
「私自身は、教室であろうが、オンラインであろうが、大切にしなければならないことは変わらないと考えています。それは『教員一人ひとりが、受け持つ授業の何を大切と捉え、どう教えるか』。それを検証した結果、リアルの授業でしかできないこと、オンライン授業で代替できること、オンライン授業のほうがより効率よく指導できることの仕訳をし、最適な組み合わせを実現することが重要だと考えます」。
「ノートルダム女学院が標榜する『思考力教育』を実現することをミッションとして担う教育開発室長としては、今後、そうした授業づくりそのものに取り組んでいくつもりです」。

《教育開発室長・霜田の『ICTを活用した今後の授業づくりの視点』》

◆視点① コースや科目ごとに、指導すべき「授業のコア」を考える

科目によって、行いたい授業の形態は変わってくる。
生徒が一緒になってディスカッションする授業、グループワークや体験を伴う授業、教師が生徒のそばにいると指導効果が高い授業などなら、教室で行う授業を優先。あるいはオンラインであっても「生」の授業を軸にして組み立てるほうがよい。
その際には、教師に対して、「テーマ」を設定する力や授業の組み立て自体をシミュレーションする力が求められる。
また、教師には、映像制作スキルの向上、ライブラリー化を前提とした事前の構成・編集力なども求められる。

◆視点② 50分授業の中でICTをうまく使うことで、生徒にとって“楽しい”授業が展開できる

授業の中でも、「記憶」や「理解」の部分はオンラインで代用できる。生徒の「評価力」「創造力」「共同する学び」を育むためには、オンラインだけでなく、リアルな授業も必要であり、その時間を創り出すためにも学びのICT化を進め、生徒にとって最適な授業をデザインすることが大切である。

◆視点③ ICT活用による、一人ひとりの伸長度に合わせた「個別最適化教育」も視野に

緊急対応ではありながらも、オンライン授業を実施・経験したことによって、クラス全員に対する指導(課題やレポートの提出管理やそのフィードバックなど)と、一人ひとりの学習習熟度や伸長度(個別の目標設定、レベルに応じた課題、一対一の相談など)の2軸の指導方法を行える道筋がついた。
今後、ノートルダム女学院が目指す「一人ひとりを大切にした指導」を徹底するためには、こうした「ICTを活用した指導のパーソナル化」は、積極的に検討していくべきテーマとなりうる。