ノートルダム女学院の
教育と社会を結ぶ交差点

体験型・実践型学習

テーマ3

一人ひとりが
輝ける場としての
舞台製作

他者とぶつかりながらも、自分にできること・すべきことを見つける

2021.04.05 配信

CASE 1

中学1年生から毎年つくる舞台「スマイル・プロジェクト」

板谷 悠子

Yuko Itatani

プレップ総合コース長

国語科

3年間の集大成としての演劇上演
学年全員で最高の舞台をつくり上げる

自主性・協働性を身につけるために、
3年間かけて取り組む舞台製作

ノートルダム女学院のプレップ総合コースでは、中学1年生から3年生までの総合的な学習の時間に、「スマイル・プロジェクト」と名付けられた舞台製作に取り組んでいる。生徒たちが自分たちで演目を決め、役者、照明、音響、美術などの担当も、すべて自己申告で決めていく。演出家の村上花織さん(劇団三毛猫座 主宰)をはじめ、約10名のプロの照明、音響、美術講師の指導のもと、1年生は9月の文化祭のときに教室で、2年生は6月のオープンスクールのときに講堂で、3年生は10月に京都ノートルダム女子大学ユニソン会館でと、学年が上がるごとに大きなステージでの舞台づくりに挑んでいる。

左から1年生(教室)→2年生(講堂)→3年生(京都ノートルダム女子大学ユニソン会館)と、製作する舞台の規模も大きくなる

このプロジェクトが始まったのは3年前。現在の中学3年生が1年生のときからだ。プレップ総合コースのコース長を務める板谷は、スマイル・プロジェクトのスタートをこう振り返る。
「本校に入学してくる生徒たちには、中学校での3年間を過ごす中で、自分で考えること、意志をもって動くこと、そして何よりも自分の強みを見つけてほしい。その教育題材を探している時に出会ったのが、この演劇を通じた教育です」。

さまざまな役割から成り立つ舞台製作には、
必ず自分が輝ける場所がある

演劇を通じた教育にたどりつくきっかけをつくったのは、校長の栗本だ。板谷は、栗本から海外の学校で行われている演劇の授業の動画を見せてもらった。
「見たときに、これなら中学生も興味を持って取り組めるかもしれないと思いました。舞台をつくり上げるにはいろんな役割があり、生徒一人ひとりに必ずできることがある。しかもその中の何かが欠けてしまえば、舞台は完成しません。必ず自分の力を周りの人から求められる、自分の頑張りは必ず結果となって残る。そんな経験の積み重ねが自信につながるんじゃないか、それは学校生活をより豊かなものにしていくはずだと思ったんです」。

言われたことをやるだけだった1年生も
翌年は自らできることが増えている

いまの3年生が1年生の時には、3つのグループに分かれて「顔」「おぼろ夜のエレジー」「根のない木はない」という約20分間の演目3作品を、2年生では2つのグループに分かれて、「銀河鉄道の夜」と「猫」という約30分間の演目2作品を上演した。
このプロジェクトでは、教員やプロスタッフはあくまでサポート役であり、生徒の役割を決めたり、作業を指示したりすることはない。生徒たちは、役者、舞台美術、衣装、照明などから、自分が挑戦したい部門に立候補する。もしも役者の希望者が多ければ、その人数に合わせて台本のほうを調整していく。

生徒たちは自分が挑戦したい役割に立候補する

板谷は、3年前を思い出しながら、生徒の成長を振り返る。「初めて舞台製作にチャレンジした1年生の時には、自分の担当は決まったものの、『私は一体何をしたらいいんだろう?』といった感じでした。『まずは、講師の先生から教わったことを一つひとつやってみよう!』とアドバイスする、そこからです」。
「2年生になると、自分から『こんなことをやってみたい!』というアイデアも出るようになりました。同時に『やりたくない』こともわかってくる。みんなとの話し合いの中で、『私、この担当いや!』と言い放ち、話し合いは空中分解。そんな気まずい経験もします」。
「そんなときでも、プロの講師の方々がサポートに入っていれば、場が締ります。プロにとっては、どんなときでも舞台は『仕事』であって、『授業』ではありません。『仕事』である以上、全体のために何かを譲る。一方でどうしても譲りたくないものは主張しあう。甘えやわがままは自制しつつ、主張がぶつかりあうときには互いに納得できる落ち着けどころを探り、そのうえでよりよい舞台づくりをめざす。プロが舞台づくりに向かう姿勢を目の当たりにすることで、生徒も自分たちでつくる舞台のクオリティを少しでも上げたいという気づきが生まれます」。

舞台製作を3年間継続することで、
壁を乗り越え、他者と協働する力を身につける

「3年生になった今年、生徒たちは、いい意味で『よくばり』になっていました。自分がやりたいと志願したことは集中してやりきる。とはいえ、やりたいことだけというワケにはいきませんから、ちょっと気乗りしないことでも、全体のために一定レベルを保って完成させる。全体の中での自分の役割を意識して行動できるようになっていました」。
「練習中・準備中は、生徒同士でぶつかることがしょっちゅうです。役者であれば、相手役が全然セリフを覚えてこないことについて。舞台美術であれば、セットに塗る色についてなど。いいものをつくるという目標に向かって、どう言えば相手にわかってもらえるのか、どうすればみんなの気持ちをひとつにできるのか。今回は、過去2年間はなかったパンフレット・ポスター作成という役割も新しく設けたのですが、ここで力を発揮する生徒もいました。そうやって、教員なんていなくても、生徒だけで自走できるようになるのが理想ですね」。

新型コロナウイルス感染拡大の中
完成した最高の舞台

2020年10月31日、49名の3年生は、全員で約40分間のミュージカル「ヘアスプレー」を上演した。

生徒たちがこの演目を選んだのは、いろんなキャラクターがいて、音楽も明るくポップでとにかく楽しそう!という理由からだ。ミュージカルは、舞台づくりの難易度が上がる。セリフだけでなく、歌も覚えねばならない。しかも40分間ほぼすべてダンスがあり、役者やダンスアンサンブルの生徒たちは、振付を覚えるのも一苦労だ。
たまたま選んだ「ヘアスプレー」だったが、時を同じくして、全米で黒人差別反対運動「Black Lives Matter」が広がった。生徒たちは6月の対面授業再開後から、事前学習としてミュージカルのテーマである黒人差別の歴史や背景を社会科の教員からじっくり学び、それから練習や準備をスタートした。
役者やアンサンブルの生徒は、暑い時期にもマスクを欠かさず、芝居やダンスの練習をした。京都ノートルダム女子大学ユニソン会館は、ノートルダム女学院の講堂とは比べ物にならないほど広い。大道具や小道具の生徒は、その舞台に見劣りしないだけの大道具や舞台美術を、ひと夏かけてつくりきった。本番前日、搬入して組み上がったセットの迫力に、生徒たちは自然と歓声を上げ、笑顔を浮かべた。
「40分間の舞台をやり終えたあとは、みんな感極まっていましたね。観客として舞台を観覧された保護者の方々も涙されていました」。

演劇は、「主体性」や「協調性」はもちろん
言葉では表しきれない力を身につける機会

「スマイル・プロジェクトの舞台製作は、総合的な学習の時間を使った教育プログラムです。3年間の舞台製作を通じて、自主性や協働性を身につけることを目的としています。2年生までの舞台づくりの経験が自信となり、『みんなで一緒に、あえて難しいミュージカルに挑戦してみたい』という思いを持てた。その時点で、このプロジェクトは成功したと思います」。
「またこのプロジェクトのエッセンスは、その過程にあります。自分と相手の得意・不得意を理解し、そのうえで自分の役割を意識する。お互いを励ましあいながら、誰かに助けられ、誰かを助ける。一人ひとりの中に自信が芽吹き、その生命力をもってさらにお互いに高めあえる」。
「それらは、教育的にいえば『主体性』や『協調性』といった言葉になるのかもしれません。ですが、生徒たちは、そんな言葉とはまったく異なる、言葉では言い表せない瞬間に出会ったんじゃないかと思います。仲間と一緒に過ごす時間の中で、自分というひとりの人を見つめ、自分をいたわり、他の誰かを思いやる。『自分の中にある豊かさ』みたいものが感じられた瞬間と言ってもいいかもしれませんね」。


ノートルダム女学院中学校は、2021年4月から「グローバル探究コース」と「グローバル総合コース」の2コース制へと生まれ変わります。
現在のプレップ総合コースで行われているこの「スマイル・プロジェクト」は、引き続き「グローバル総合コース」のプログラムとして実施されます。