ノートルダム女学院の
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卒業生・在校生の活躍

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日々コツコツと
その研究が、誰かの
助けになればうれしい

京都大学iPS細胞研究財団
研究員 神谷麻梨さん

2022.10.07 配信

神谷 麻梨

Mari Kamitani

京都大学iPS細胞研究財団
研究員

ノートルダム学院小学校、ノートルダム女学院を卒業。その後神戸大学発達科学部、神戸大学人間発達環境学研究科修士課程、京都大学理学研究科博士課程に進学。理学博士(2017年、京都大学)。日本学術振興会特別研究員、大学の教員等を経て2021年4月より現職。

京都大学iPS細胞研究財団の研究員として、主にゲノム解析の仕事に携わる神谷麻梨さん。 現在の仕事の原点となったノートルダム女学院の科学クラブでの活動や、 iPS細胞という医療の未来を担う研究者として、いま大切に考えていることをお聞きしました。

〈いま〉
京都大学iPS細胞研究財団にて研究員としてゲノム解析を担当

神谷さんは、現在、京都大学iPS細胞研究財団の研究員として仕事をしている。
「iPS細胞は、多様な細胞へ分化する能力を持った細胞で、再生医療、病気の原因究明、新薬の開発などへの活用が期待されています。私の所属する京都大学iPS細胞研究財団(CiRA_F)は、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)から一部機能が分離して2019年に設立された新しい組織。iPS細胞を用いた再生医療の実用化に向け、大学から産業界へと技術や知識を橋渡しすることがミッションです。再生医療に使用できる品質のiPS細胞を製造し、全国の研究機関や企業への公平かつ適正な価格での提供や、新たな技術・基準の開発やその提供を通して、再生医療の普及に貢献しています」。
この組織で神谷さんが担当する主な業務はゲノム解析だ。
「ゲノム解析チームに所属し、次世代シーケンサー(DNAやRNAの塩基配列を解析する装置)を用いたiPS細胞のゲノムや遺伝子の発現解析や、研究機関から依頼されたサンプルの解析が主たる業務です。iPS細胞は、医療に用いるものだけに品質の担保が不可欠で、私はゲノム解析の面から品質を支えています」。

京都大学iPS細胞研究財団の研究棟正面にて

〈原点〉
研究し、伝える楽しさを知った科学クラブの「出張授業」

神谷さんの研究者としての原点は、ノートルダム女学院時代の科学クラブだ。なかでも「出張授業」は、記憶に残る活動だった。
「中学3年生の春から4年間、保育園や幼稚園、小学校などへ手づくりの教材を持参して実験を行う『出張授業』を行いました。ノートルダム女学院の授業がおもしろく、自分も子どもたちに学ぶ楽しさを伝えたいと思ったんです。『いのちの誕生を見よう』と題した授業は、発生の進んだ黒っぽいメダカの卵を指でつまんでプレパラートに入れ、手づくりの顕微鏡で観察する内容です。タイミングがよければ、メダカが卵から生まれる瞬間を見ることもできます。観察前には、『卵をつぶしていい?』と聞いてきた子どもが、顕微鏡を通してメダカの心臓の拍動を確認し、生まれる瞬間を見た後には『早く広いお水に出してあげて!』と言ってくれたことは、いまでも印象に残っています」。
また、この授業を通して、神谷さん自身も興味をたどって学びを深める経験ができたという。
「何かを人に伝えるには、自分がわかっていないと伝えられないので、授業の前にはいつも知識を補強しようと勉強をしていました。勉強することで、自分の興味が一層深まり、新たな知識を得ることもあります。そうすると、新たに得た知識を、次回の出張授業で子どもたちに教えたくなる、という好循環が生まれました。こうしてワクワクしながら学びを深めた経験が、いまの研究につながっていると思います」。
そして出張授業がきっかけとなり、その後につながる縁も得た。
「出張授業を通して知り合った京都大学総合博物館の大野館長から、オーストラリア国立モナシュ大学のパトリシア博士をご紹介いただいたんです。パトリシア博士も、オーストラリアで子どもたちに恐竜について教える授業をされており、私たちの活動に興味を持たれました。そして、ご自身の恐竜の教材を日本語に翻訳してくれるなら、それを使って日本で出張授業をしてもいいと提案してくださったのです。私たちは「やらせてください」と返事をし、1年半かけて翻訳を終えました。そして、翻訳の記念にと博士からオーストラリアに招待いただき、モナシュ大学で恐竜の骨の発掘や、研究発表をする機会までいただいたのです」。

大型の模型を使った解説は大迫力

〈ターニングポイント〉
研究テーマを植物から人の命に関わるものに変更

大学の学部と大学院の修士課程では、植物のRNAやDNAの研究を行ってきた神谷さん。現職では研究テーマを植物からヒトのRNAに変更した。
「神戸大学では、光合成で重油を生産する藻を研究していました。空気中の二酸化炭素を材料に重油をつくるので、環境にやさしい油がつくれます。ただ、競争が激しい分野で、誰かと共同で研究を進めることはありませんでした。そこで博士課程では、誰かと協力して研究したいと思い、基礎研究を行う分子生態学へ、そして現職ではさらにiPS細胞へと研究テーマを変更しました。研究テーマを変更して感じた最も大きな変化は、サンプルへの向き合い方です。植物を研究対象としていたときは、サンプルは「また取れる」「いくらでも取れる」ものでした。しかし、ヒトの細胞はそうはいきません。ヒトのサンプルには、ドナーがいます。個人情報はもちろん明かされませんが、世界のどなたかが提供してくださったもので、年齢、性別、亡くなった方であれば死因が書かれていることもあります。特定の病気を治すための研究では、その向こうにいらっしゃる患者さんの存在が、小さな容器の中に大変な重みを持って感じられます。このサンプルを、少しも無駄にせず大切に使い、その思いに必ず報いなければと強く思いました」。

〈いま、私にできること〉
医療の未来をつくるため何歳になっても学び続ける

現在、神谷さんが研究を進めるiPS細胞は、いまはまだ治らないとされている病気を治すことができる、そんな可能性を秘めたもの。それだけに病気に苦しむ患者さんやそのご家族はもちろん世界中の人々が、その研究成果を待ち望んでいる。
「私は出産を経験し、人の命や生きるということについて、これまで以上によく考えるようになりました。私の研究によって何か大それたことができるとは思っていませんが、目の前のことをコツコツ研究することが、誰かの命を助けることに少しでもつながるのであれば、うれしいです。これからも誰かの助けとなるような研究を続けられるよう、何歳になっても学び続け、成長を続けていきたいと思います」。

幼いお嬢さんとの時間を楽しむ神谷さん