ノートルダム女学院の
教育と社会を結ぶ交差点

特長的なカリキュラム

総合学習の新たなカリキュラムづくりに挑む

ノートルダム女学院では、中学校・高校を通じて「総合的な学習(探究)の時間(以下、総合学習)」に年間約70コマもの時間を充てている。中学1・2年次に行われる「グローバルワークショップジュニア」では、今後の学習活動の基礎となるスキルを高めるカリキュラムが組まれている。さらに中学3年次には、高校で専門化する3コースに接続するための「ブリッジプログラム」が行われる。中学校の総合学習でとりわけ特徴的なプログラムは、コースの共通の「ラウダート・シ」、グローバル総合コースの「演劇教育」、グローバル探究コースの「探究活動」だ。
今号では、他校にはない独創的なこの3つのプログラムについてレポートする。

生きる練習・演劇教育を通じて、
コミュニケーション力や
協働性を身につける

演劇教育

2024.04.26 配信

欧米では「ドラマ」と呼ばれる演劇のカリキュラム。「生きる練習」とも呼ばれ、子どもの成長過程において必須のものとして教育に取り入れられている。
近年、日本でもその効果が注目され始めているが、ノートルダム女学院ではすでに2018年からカリキュラム化している。
演劇を学校教育に取り入れた狙いと効果を尋ねた。

コース長・宗教科山川 啓

年間30時間の演劇教育で
自分を知り他者を知る

 6年目を迎えたノートルダム女学院の演劇教育。指導の中心的役割を担う教員が山川だ。山川は、演劇教育を始めた理由をこう語る。
 「演劇には、いろいろな役割や過程があります。生徒が自分のやりたい役割を選び、それぞれの稽古や準備の成果が合わさって、最終的に一つの舞台になる。一人ではできないことも、みんなの力を合わせたら解決できた、それを実感できるのが演劇なんです」。
 グローバル総合コースでは、中学の3年間、年間30時間を演劇教育に充てている。カリキュラムは、舞台とは何かを知ることから始まり、演目の決定、演目の舞台背景の調査、役割の決定、稽古、準備、観客を入れての本番からなる。舞台背景の調査では、たとえばミュージカル『ヘアスプレー』の場合なら、1960年代アメリカの黒人差別について事前学習を行う。
 役割には、役者/美術/照明/音響/衣装/ヘアメイク/宣伝などがあり、合同リハーサルを経て、自分の担う役割が全体のなかで欠かせない仕事の一つであることがわかってくる。
 山川は、演劇だからこそかなう学びを、「自分の得意を知ること」「他者を理解すること」「他者と協働する力を養うこと」だと語る。
 「演劇教育は、自分のやりたいことを選び取る選択の連続。自分とは異なる選択をする他者がいることで、自分の“好き“や”得意“が明確にわかります。また、演劇は“なりきる“ことが特徴です。自分ではない何かの役をする際は、 “どんな気持ちだろう“”どんなセリフを言うだろう“とその役の理解に努めますが、それが他者を理解することにつながります。そして稽古や準備の過程では、意見がぶつかったりすることもあります。考えの違う他者の存在を認めたうえで、それでも一つの目標に向かって進むためにどうすべきかを話し合うなかで協働する力が養われるのです」。

欧米での演劇教育は
シチズンシップ教育

 「多様な人種・民族がいる欧米では、他者を理解するドラマは学校教育として必要なものです。他者の“辛さ“”痛み“”苦しみ“を知る市民教育の一つとして位置づけている学校も多いんです」と山川は語る。
 ノートルダム女学院の演劇教育では、演出家、ダンサー、芸術家など、演劇業界の第一線で活躍しているプロを、講師として5〜6人迎えている。
 「専門性の高いプロを起用することで、生徒たちは憧れを持って学ぶことができます。また、講師らが専門分野ごとに多様な視点を持って舞台づくりに携わっていることにも気づくことでしょう。そこからさらに一歩踏み込んで、社会もいろんな視点を持った人たちで成り立っていることに気づけるようなプログラムにしていきたいと思います」。

講師を務める
プロの演劇人の思い

劇団三毛猫座 主宰・演出
nekoさん

京都市立芸術大学大学院美術研究科工芸専攻修了。2015年に劇団三毛猫座を旗揚げ、以降劇団の全作品を演出。現在は劇団外でも舞台作品の演出、演出助手に従事。京都市立芸術大学キャリアデザインセンター芸術支援アドバイザー、京都芸術大学非常勤講師、他。

練習で使用される台本

舞台の本番だけでなくプロセスにも価値がある

 演劇を学校教育に取り入れている学校はほかにもありますが、ノートルダム女学院の特徴は、中学で取り入れていることと、役者だけでなくスタッフワークも生徒に担わせていることです。中学生は人前に出ることや自分の作ったものを人前に晒すことに抵抗のある年頃。友だちと人間関係をつくるのも簡単ではないでしょう。一つの演劇を完成させるには他者とのコミュニケーションが欠かせないため、準備中にはさまざまなトラブルも起こります。しかし、それを乗り越えて迎える観客を動員しての本番で味わう達成感は、生徒たちにとって大きな経験値となるはずです。また、稽古や、舞台美術、衣装制作では、普段の授業では見ることのできない力を発揮する場面です。

 私たち講師陣は、指導の際、危険なものを除いて、できるだけ生徒のアイデアややりたいことを取り入れるようにしています。その理由は、自分がやりたいと思ったことを、きちんと完成まで持っていく経験を積むため。意欲が出たときが、その生徒の“伸びどき” です。やりたいことを実現するために考えたり、工夫をしたりすることが成長につながるのだと思います。

役者の生徒の練習風景
左:
たかつかなさん
(衣装/ヘアメイク担当)
右:
佐藤由輝さん
(美術担当)
多様な素材が使われる

仲間と協力しながら“やりたいこと”を形に

 生徒たちを指導するときには、自発性を大切にしています。ですから、やりたいことのイメージを固める作業にはしっかりと時間を使います。やりたいことさえ決まれば、生徒は演劇のプロをめざしているわけではありませんので、使用する素材や技術的な助言はいくらでも行います。

 3年間継続して見守っていると、生徒たちの成長がよくわかります。中学1・2年生の頃は、まだ責任感が希薄で「誰かがやってくれるだろう」と考える生徒が多いです。しかし、中学3年生になると、自分のやりたいことは率先してやる。そして、自分や仲間の得意・不得意もある程度わかってくるので、作業が遅れているところがあれば手伝うというように、全体を見て互いにカバーしながら動けるようになります。「いつまでに何をやる」と計画を立てて行動できる生徒もいるなど、彼女らの成長には目を見張るものがあります。

生徒が作った小道具