年間30時間の演劇教育で
自分を知り他者を知る
6年目を迎えたノートルダム女学院の演劇教育。指導の中心的役割を担う教員が山川だ。山川は、演劇教育を始めた理由をこう語る。
「演劇には、いろいろな役割や過程があります。生徒が自分のやりたい役割を選び、それぞれの稽古や準備の成果が合わさって、最終的に一つの舞台になる。一人ではできないことも、みんなの力を合わせたら解決できた、それを実感できるのが演劇なんです」。
グローバル総合コースでは、中学の3年間、年間30時間を演劇教育に充てている。カリキュラムは、舞台とは何かを知ることから始まり、演目の決定、演目の舞台背景の調査、役割の決定、稽古、準備、観客を入れての本番からなる。舞台背景の調査では、たとえばミュージカル『ヘアスプレー』の場合なら、1960年代アメリカの黒人差別について事前学習を行う。
役割には、役者/美術/照明/音響/衣装/ヘアメイク/宣伝などがあり、合同リハーサルを経て、自分の担う役割が全体のなかで欠かせない仕事の一つであることがわかってくる。
山川は、演劇だからこそかなう学びを、「自分の得意を知ること」「他者を理解すること」「他者と協働する力を養うこと」だと語る。
「演劇教育は、自分のやりたいことを選び取る選択の連続。自分とは異なる選択をする他者がいることで、自分の“好き“や”得意“が明確にわかります。また、演劇は“なりきる“ことが特徴です。自分ではない何かの役をする際は、 “どんな気持ちだろう“”どんなセリフを言うだろう“とその役の理解に努めますが、それが他者を理解することにつながります。そして稽古や準備の過程では、意見がぶつかったりすることもあります。考えの違う他者の存在を認めたうえで、それでも一つの目標に向かって進むためにどうすべきかを話し合うなかで協働する力が養われるのです」。

欧米での演劇教育は
シチズンシップ教育
「多様な人種・民族がいる欧米では、他者を理解するドラマは学校教育として必要なものです。他者の“辛さ“”痛み“”苦しみ“を知る市民教育の一つとして位置づけている学校も多いんです」と山川は語る。
ノートルダム女学院の演劇教育では、演出家、ダンサー、芸術家など、演劇業界の第一線で活躍しているプロを、講師として5〜6人迎えている。
「専門性の高いプロを起用することで、生徒たちは憧れを持って学ぶことができます。また、講師らが専門分野ごとに多様な視点を持って舞台づくりに携わっていることにも気づくことでしょう。そこからさらに一歩踏み込んで、社会もいろんな視点を持った人たちで成り立っていることに気づけるようなプログラムにしていきたいと思います」。
