ノートルダム女学院の
教育と社会を結ぶ交差点

特長的なカリキュラム

この入試が求める生徒とは?
育みたい力とは?

オーケストラクラブ推薦入試

2022.06.21 配信

問うのは、偏差値でもプロ志望でもない
まだ見ぬ自分の可能性に挑むしなやかな心

ノートルダム女学院では、2020年から全国的にも稀な「オーケストラクラブ推薦入試」を開始した。対象は、音楽が好きで楽器の練習に取り組んできた小学生・中学生だ。この制度には、受験時の知識量や偏差値に縛られることなく、「学びに対して真摯な姿勢を持つ生徒の可能性を拡げたい」という思いが込められている。制度設計の中心人物であり、音楽科教諭・オーケストラクラブ顧問の中 勝弘に、この入試を始めた理由と目指すところを聞いた。

担当教員

音楽科
オーケストラクラブ顧問

中 勝弘
Katsuhiro Naka

知識量や偏差値だけにとらわれず
集中力や挑戦意欲の高い生徒に門戸を開く

混乱と疲弊のどん底にあった太平洋戦争敗戦直後の日本。1948年、米国・セントルイスから4人のシスターが来日し、京都に学校を開いた。これがノートルダム女学院の始まりである。オーケストラクラブの顧問・中 勝弘は、ノートルダム女学院にとってのクラブの存在意義をこう話す。

「そのシスターたちは、いくつかのヴァイオリンを携えて来日しました。折に触れて奏でられるその音色は、癒しと安らぎをもたらし、情操を養い、次代を切り拓く逞しさを育みました。開校4年後の1952年、このクラブはそのシスターたちに敬意を込めて設立されました。ヴァイオリンはノートルダム教育の象徴であり、クラブはその魂を伝える拠りどころです」。

たしかに、管楽器と打楽器から編成される「吹奏楽」クラブがある学校は多いが、ヴァイオリンなどの弦楽器も含めた「オーケストラ」クラブを持つ学校は少なく、京都府下ではわずか5校に過ぎない。ノートルダム女学院がいかにオーケストラクラブを大切に伝えつないできたのか、その証左だ。同時に、オーケストラは極めて有効な教材にもなるという。

「オーケストラは、繊細で精巧な芸術です。『心で聴く音の絵巻』と言ってもいい。いくつもの楽器の個性がバランスよく重なり合ってはじめて、心象風景として浮かびあがる。己の技を磨く努力、その技を全体と調和させる努力、オーケストラにはこの二つが求められるのです。俯瞰してみれば、それこそが『生きる力』です」。

「好き」を原動力として、まっすぐに取り組むことができる。そうした力を持つ生徒に、自分の可能性を試せる場を提供したい。この制度は、そこを原点として設計されている。

「入試には、中学入試と高校入試の2種類があり、基本思想は同じですが、選考ポイントは若干変わります。中学入試は『学びに対する潜在的な力』、高校入試では『可能性に挑む勇気』です」。

一般的に中学受験には、学習塾などに通って試験に必要な知識=偏差値を獲得することが必要とされる。しかしそれは、学びに向かう潜在的な力までを保証したものではない。夢中になるほどピアノが好き、でも学習塾には通ったことはない。果たしてその児童は「学習力が劣っている」のか? そう判断するのは早計だ。沸き立つ探求心、高い集中力、根気強く続ける力という観点から見れば、むしろ優れているともいえる。そんな「学びの基礎体力」に優れた児童は、入学後、加速度を増して伸びる可能性を秘めている。
一方、この制度で高校受験する生徒の動機には、「中学までの吹奏楽で知ったみんなで音をつくり上げる喜びを礎として、もっと上手になりたい。奥行きの深い音楽の世界を経験してみたい」というものが多い。未知なる自分への挑戦だ。

クラブ活動で身につけてほしい
3つの「人としての魅力」

では、クラブで得られる気づきや成長とは何か? 中は大きく3つあると語る。

「まずは、集中力が身につきます。定期演奏会では演奏時間が50分を超える交響曲を演奏することが慣例になっています。その50分間は一瞬たりとも油断できません。それを経験すると、50分間の授業はより集中できますよ」。

「2つ目は、能動性が養われること。クラブは、原則『楽器選びは自己申告』です。イベントごとの演奏曲も生徒たちが決め、練習計画も自分たちで管理しています。そもそも演奏は、お客様に楽しんでいただくもの。自ら考え動くなかで、ホスピタリティも養われます」。

「最後は、協働力が身につくことです。オーケストラは、周囲を慮る気持ちが大切です。自分と相手、互いの思いや考え方をリスペクトしつつ、貫きたいものは主張し、譲れるものは譲る。大切なのは信頼を築くことです。一年間の演奏活動の土台づくりとして毎年行われる夏合宿では、生徒同士で意見が激しくぶつかります。だが、それでいい。それぞれの演奏イメージを一つにし、そこに向かう道をみんなで探す、その途中では必ず起きること。絆は、その葛藤から生まれます」。

クラブは、推薦入試で入学した生徒ばかりではない。むしろ、オーケストラ用楽器など演奏したこともない生徒が大半だ。だからこそ、推薦で入学した生徒の役割が鮮明になる。ノートルダム女学院のDNAともいえるクラブの推進力となること。
「この入試は、プロの音楽家を育てることが目的ではありません。チームで心を一つにし、好きな音楽に向き合うなかで、『人としての魅力』を磨くことです。それはクラブのほかのメンバーも同じです。やがて社会に出た時、いずれの業種でも『さすが、ノートルダム女学院オーケストラクラブ出身!』と言われるような人になって欲しい。もちろん音楽家として活躍してくれる生徒が出てくれれば、それはもう指導者冥利、なんですけどね」。