ノートルダム女学院の
教育と社会を結ぶ交差点

特長的なカリキュラム

総合学習の新たなカリキュラムづくりに挑む

ノートルダム女学院では、中学校・高校を通じて「総合的な学習(探究)の時間(以下、総合学習)」に年間約70コマもの時間を充てている。中学1・2年次に行われる「グローバルワークショップジュニア」では、今後の学習活動の基礎となるスキルを高めるカリキュラムが組まれている。さらに中学3年次には、高校で専門化する3コースに接続するための「ブリッジプログラム」が行われる。中学校の総合学習でとりわけ特徴的なプログラムは、コースの共通の「ラウダート・シ」、グローバル総合コースの「演劇教育」、グローバル探究コースの「探究活動」だ。
今号では、他校にはない独創的なこの3つのプログラムについてレポートする。

感じる・気づく・考える・
まとめる・伝える
探究のよろこびを知る

探究活動

2024.04.26 配信

グローバル探究コース(中学校)とSTE@M探究コース(高校)のカリキュラム編成で、最も重視されているのは「探究心」の育成だ。
単なる知識の詰め込みにとどまることなく、もっと知りたい・学びたいと欲する本物の探究心を育てるノートルダム流の指導法をレポートする。

理科
グローバル探究コース長
田中 大

学習リテラシーを鍛え、
興味のアンテナを刺激し続ける

 「STE@M探究コース」は、理系大学・学部への進学をめざす生徒向けに設けられているコースだ。高校進学時にこのコースを選択する生徒の多くは、中学校時は、「グローバル探究コース」で学ぶ。このグローバル探究コースの総合学習こそ、ノートルダム女学院の理系科目指導の特長を端的に物語っている。
 グローバル探究コースでは、理科4分野(物理・化学・生物・地学)の授業とは別に、年間で約55コマ程度、理系向けの総合学習に時間を割いている。そこで重視されているのが、「探究心」の育成だ。カリキュラム作成を担う田中は語る。
 「中学時代は、理系科目を学習する土台をつくる時期。中学校は小学校と違って、科目も細分化・専門化します。暗記のみに頼っていては、すぐに息切れします。そうならない原動力は、『おもしろい、もっと知りたい』と感じること。その気づきがあれば、自ら学び始めます。中学生の時にこそ、この本物の探究心を育むことが大切です」。
 田中は、「カリキュラムづくりのポイントは2つある」という。一つは、学習リテラシーを鍛えること。もう一つは、興味のアンテナを刺激し続けること。
 「まずは、リテラシーについて。パソコンの使い方を教えるなどはもちろんですが、あえて科学書を読むアナログな時間も設けています。『スマホでググる』ではなく、『文献を尋ねる』ための素養づくりです。レポートも書かせます。これも調べた知識を書くだけの『調べ学習』では意味がない。得た知識をこう使えばこんなことができるかもしれない。その『発展』までを書かせることが大切です」。
 「二つめの興味のアンテナを刺激する、これが一番の腕の見せ所です。ベクトルの異なるさまざまな経験をさせてみる。何に反応するのかは、一人ひとり違います。何か一つでも『好き』や『おもしろい』が見つかれば、学びは自走し始めます。その選択肢をいくつも提示すること、それが何より重要な私たちの役割です」。
 年度末には、探究活動発表会が開催される。生徒はそれに向けて秋までには自分でテーマを設定し、調べ、考え、まとめ、当日発表する。こうした日常的・反復的な訓練が、しなやかな探究心を育んでいく。

探究活動発表会
「1年間の探究活動の成果を、各自ポスターでプレゼンテーション」

 毎年2月下旬には、グローバル探究コース(中学1年〜3年)、STE@M探究コース(高校1・2年〈高校3年は自由参加〉)の生徒一人ひとりが、一年間かけて取り組んだ探究テーマを一枚のポスターにまとめ、プレゼンテーションする「探究活動発表会」が開かれる。当日は、父母をはじめ、他校の教員や教育関係者なども訪れ、発表に耳を傾ける。探究テーマには、ユニークな視点や自由な発想による切り口から生まれたものが少なくなく、興味をそそられる発表が多い。

2023年度の探究テーマ例(一部)

  • 金魚は水槽の大きさで本当にサイズが変化するのか
  • コンサート参加が人間に与える心理的な影響
  • 絶対に起きられる方法
  • 少子高齢化と婚姻法と教育制度の因果関係
  • バンドの担当楽器と性格の関係
  • 猫の鳴き方で感情はわかるのか
  • 植物にAI音声で言葉をかけるとどんな変化が生じるのか
  • 食べられる石鹸
  • シャボン玉は球形以外では作れないのか
  • 京都の雨は酸性雨なのか
  • 浦島太郎が亀で竜宮城に行くのは可能なのか
  • 白ってほんまに200色あんの? 等

独創性に富んだ
探究系総合学習(一部)

  • ふれあい天文学

    日本の天文学研究の拠点・自然科学研究機構国立天文台(東京・三鷹市)の研究員を招いた授業。同機構が運用するハワイ島・マウナケア山頂の「すばる望遠鏡」に携わった研究員が、無限の宇宙の不思議と魅力を語った。

  • ロボットプログラミング

    三菱総研DCS株式会社のエンジニアを招いた授業。同社はAI を活用したコミュニケーションロボ開発やデータサイエンスなどのITソリューションを提供する。プログラミングの基本や仕組みを学び、ロボットとのコミュニケーションも体験した。

  • リップクリーム商品企画

    ロート製薬株式会社の商品企画担当者を招いた授業。リップクリームの「香り」をテーマに、新商品開発のアイデアを出して意見を発表。自分にも身近な商品だけに、大人とは違う視点から生まれるアイデアが多数出された。

  • 棟梁の南極越冬体験記

    南極の昭和基地居住棟の建築に携わるミサワホーム株式会社の棟梁を招いた授業。オーロラなどの大自然の魅力、隊員とともに厳しい冬を過ごしたなかで知ったチームワークの大切さなど、「棟梁の目で見た南極」を講義した。

  • ArCSⅡワークショップ

    北極域研究加速プロジェクト(ArCSⅡ)の研究者を招いたワークショップ。ArCSⅡは、国立極地研究所、海洋研究開発機構、北海道大学の3つの機関からなる。授業では、北極海の海氷面積が一年間で最小となる9月の海氷面積を予測した。

  • 哲学の道の植物でアート

    ノートルダム女学院のそばにある哲学の道の植物を使って、アートをつくる授業。STEAM教育のA=Artを意識し、哲学の道の豊かな植生を知ると同時に、自然がもたらす美しいものを使って自分の感情や心象風景を表現していく。

ノートルダム女学院OG / JAXA宇宙科学研究所 特任教授・巽 瑛理さんによる

特別講義宇宙との出会い

何かを決断して動き始めれば、
知らないことがわかる、それが探究

 今はJAXAで、はやぶさ2のプロジェクトに関わっています。中学高校時代の恩師に、JAXAに入ることを報告したら、「ぜひ母校で講演して!」と頼まれ、喜んでお引き受けしました。
 当時の私を振り返ると、今の研究にたどり着くまでにはずいぶん回り道をしたんだなと思います。小学生のころから宇宙に興味はありました。やがて、日本人女性では二人目の宇宙飛行士となった山崎直子さんに憧れ、宇宙に行きたいと思い始めました。先生方のお力も借りて必死で勉強し、京都大学工学部に合格しました。でもそれはロケット工学だったんですよね。今の研究にたどり着いたのは、10数年前です。
 それでも私は、それでよかったと思うんです。何かを決断して動いてみると、自分に何が足らないのかがわかり始めます。その「渇き」をエネルギーにして、もっと学びたくなる。そうして出会ったのが今の研究です。きっと「探究」とは、そんな「知ることの喜びに出会う旅」なんだと思います。
 後輩の皆さんは、ぜひいろんなものに触れてみて欲しい。きっとそれらのなかには、自分のアンテナを揺さぶるものがあるはず。そこが自分の転機になるかもしれません。動いてみないと、何にも出会えませんからね。
 今でも宇宙飛行士にはなりたいです。けれども宇宙飛行士は「地球の周辺を飛んでるだけ」。はやぶさ2は地球どころか、太陽系を飛びだして遥か彼方まで出かけている。そのスケール感は宇宙飛行士の比ではなく、それに関わっていること自体に興奮します。
 私の探究の旅も、まだまだ終わりそうにはありませんね。

JAXA宇宙科学研究所
太陽系科学研究系 特任教授
巽 瑛理さん

東京大学とスペイン・カナリア天文物理学研究所勤務時代に行なっていた「小惑星探査機の観測と室内実験によるC型小惑星の進化史の解明」というテーマで、2020年度第13回宇宙科学奨励賞、2021年度日本惑星科学会最優秀研究者賞を受賞。