社会課題を「自分ごと化」するプロセスでラウダート・シを活用
Q. ラウダート・シとは?
2015 年 5 月に教皇フランシスコによって発表された社会回勅。社会回勅とは、社会問題をテーマとした回勅。ラウダート・シは、環境問題を中心に据え、そこに密接に結びつく貧困、経済、政治、文化、日常生活などの諸問題について考察。これらに対し、教会の信仰と教義に照らしながら、どのように捉え、取り組むべきかを示している。カトリック教会としての環境問題への責任を回勅全体で述べたのは初めて。
「地球市民」の意識を育てたい
授業の狙いは、その土台づくり
ラウダート・シを教材とした授業と聞けば、宗教の授業にも思えるがそうではない。宗教の授業は、年間約35コマ分、別途設けられている。このプログラムは、さまざまな社会課題に対して、生徒一人ひとりが自分ごと化し、自分なりの解決策を考えるためのワークショップだ。
「『グローバル』を掲げる学校やコースはたくさんあります。では、そのグローバルとは何か?もちろん英語力もその一つですが、もう一つ大切なことがあります」。
「この授業は、2年前から始めました。いま私たちが暮らすこの地球は、多くの課題に直面しています。幸いにも日本は平和な国ですが、それゆえに戦争や貧困、食料危機などと言われても他人ごとにしか感じません。ともすれば、そんな問題があることすら気づかない。それじゃダメ」。
「まずは、80億人がともに暮らすこの星が抱える問題を知る。それを自分なりに解釈し、自分にできることを具体的に考え、行動する。そんな『地球市民』意識のある人を育てたい。それがノートルダム流のグローバル教育であり、その土台をつくるのがこの授業の狙いです」。
ラウダート・シは、環境問題を中心に据え、そこと密接につながる戦争や貧困、格差、差別などの諸問題を考察し、カトリックの教義に基づいて解決の糸口を提示する。社会課題解決のワークショップの教材にするには最適な書だ。
たとえば、戦争について、グループで討議する場面がある。なかには「やられたらやり返す」という強硬な意見も出る。一方で「それでは互いに疲弊するだけ」という意見も出る。その際、ラウダート・シのなかでは、「赦し」という概念を持って解決の糸口を導く。「許し」ではない。傷つけ合い続けることは、復讐の連鎖を生むだけ。罪や過ちを「赦す」のだ。ただし、起きたことを忘れてはいけない。その悲惨さや慟哭を記憶に刻むことこそ大切。忘却は、同じ過ちを繰り返す原因だと説く。
「決して宗教的な教えを押しつける授業ではありません。ラウダート・シを自分の意見を組み立てる一つのヒントにしてほしい。そして、自分の考えをまとめる時間を大切にしてほしい。『自分ごと化』は、その時の経過とともに、深まっていくのです」。
今まで気づきもしなかった課題に気づく感性を磨くこと。その課題と向き合い、自ら学び、考え、行動できる力を身につけること。ノートルダム女学院らしい指導のエッセンスが凝縮された総合学習だ。