ノートルダム女学院の
教育と社会を結ぶ交差点

CROSS TALK

ノートルダム女学院中学高等学校学校長&
京都ノートルダム女子大学学長

いまの日本に求められているのは、
ジェンダーギャップを超えた女性のリーダーシップ

高大連携プログラムと
学部を超えた学際教育で導く
ノートルダム流
女性のライフキャリア設計

2024.04.26 配信

ノートルダム女学院学院長
ノートルダム女学院中学高等学校
学校長 栗本嘉子
京都ノートルダム女子大学
学長 中村久美

いまあらためて女子大学の存在意義が問われています。こうした流れのなか、ノートルダム女学院では新たな挑戦を始めています。その新たな試み「女性のライフキャリア設計」について、ノートルダム女学院中学高等学校校長 栗本嘉子と、京都ノートルダム女子大学学長 中村久美が語り合いました。

この女子大学で学んでよかった
そう思ってくれる卒業生が増えている

女子校、女子大学は必要か?
その存在意義が問われている

中村いま、女子大学の存在意義が問われています。2000年以降、急激な大学・学部の新増設と少子化が相まって、女子大学に限らず、定員割れを起こした大学・学部は少なくありません。そんな環境のもと、女子短期大学を廃して4年制化すると同時に共学化、といった動きも加速しました。そしていよいよ学生募集を停止する女子大学も出始めています。なぜ女子大学でなければならないのか? いま、それが問われているのです。
栗本それは大学に限らず、女子中学・高校においても同じです。本来、女子校は男子生徒の目を気にすることなく、のびのびと学び、女性ならではのリーダーシップやフォロアーシップを磨いて、自信と意欲を身につけることができる場です。男子生徒がいれば無意識に一歩引いたり、あるいは面倒なことを避けるために男子生徒に任せたりもする。でもいなければ、自分たちの誰かがリーダーとなり、そのリーダーに従ってみんなが力をあわせなければなりませんからね。

ジェンダーギャップを抱える日本
女子校、女子大の役割は大きい

中村昨年10月14日、全国の28校からなる女子大学連盟総会が津田塾大学で開催されました。そこでは「女子大学の意義」「女子大学で培われるリーダーシップ」などについて、出席した23大学の学長たちが熱心に話い合いました。
栗本ジェンダーギャップ問題を抱える日本の現状を見る限り、むしろ今こそ女子校、女子大学の役割は大きいと言えるのではないですか?
中村本学からも卒業生アンケートの回答を示し、近年の卒業生ほど、女子大学で学んだ意義を評価していることを報告し、女子大学の意義について意見を述べました【グラフ参照】。
栗本たしかに…。2010年以降、次第に「女子大で学んでよかった」割合が増えていますね。その理由は何ですか?
中村本学は、2009年「大学教育・学生支援推進事業」に採択されたのを機に、翌年2010年にキャリアセンターを立ち上げ、専任講師を配置してキャリア教育とキャリア支援の両面を強化しました。
栗本日常的かつ専門的な女性キャリア教育指導を受け、キャリア形成意識を啓発された学生が増えたことが結果に現れた。女子大だからこその指導への満足度が上がった、ということですね。
中村本学は職業キャリアに限定せず、女性の生涯や生き方を考えるライフキャリアという概念を掲げています。多様なライフキャリアのロールモデルを示しながら、学生をエンパワーすることで、ジェンダーギャップの大きい社会にあっても、その状況を変革できる人材育成に努めたいと考えています。

Q. 女子大学で学んでよかったと思いますか?(京都ノートルダム女子大学卒業生アンケート)

女子中高・大学だからこそできる
女性のリーダーシップ養成がある

学際的に学べる仕組みと、
女性のキャリア形成

栗本2025年4月に設置される新学部「女性キャリアデザイン学環」は、その思いの延長線上にあるのですね?
中村はい。その「女性キャリアデザイン学環」設置に至る前には、2023年に社会情報課程を新設しています(※社会情報課程は、2025年の女性キャリアデザイン学環設置に伴い、「社会情報学環」に名称変更予定)。ここで得た知見と経験が「女性キャリアデザイン学環」の源になっています。
栗本その「知見と経験」とは?
中村学部を越えて学際的に学べることで学びへの意欲や関心が誘発され、主体的なキャリア形成につながっていきます。
栗本私が預かる中学・高校においても、大学以上にその仕組みづくりが指導の鍵を握っています。そもそも中学生や高校生に「将来の仕事を決めなさい」と指導するのは無理強いです。そんなことを決められる生徒なんて、ごくわずか。いまの彼女たちは何者でもない。逆に言えば、これから先、何者にもなれる。「可能性のかたまり」なのです。大切なのは、学校生活の中でさまざまな場面に立ち会うこと。そこで何かを感じること、考えること、気づくこと。自分のアンテナが敏感に反応したものに対し、誰に指導されるでもなく自ら学ぶ力を得ること、知識を蓄えること、行動すること。
中村日々、学校生活のなかで、そうした機会を提供し、一人ひとりの胸の内にいくつかの選択肢をつくること、その選択肢づくりに伴走してあげること。それこそが私たち教育者の最大の役割であり使命だと考えているのです。

情報とライフキャリアを横軸に据えて
さまざまな分野を学際的に学ぶ

新学部は、幅広い知識を持つ
ゼネラリスト型人材をめざす

栗本すでに設置済みの社会情報課程、2025年に設置予定の女性キャリアデザイン学環の具体的内容を教えてください。
中村本学に以前からあった学部は2つで、国際言語文化学部と現代人間学部です。この専門的に学べる学部を縦軸とすると、社会情報課程はそれらの学部に「情報」というキーワードで横串を刺して、水平的な学際教育を行う学部です。人の気持ちや悩みを解析する「情報×こころ」、装いの深層を探る「情報×ファッション」、世界を知るために日本を知る「情報×日本」、AIの活用と共存を考える「情報×未来」。これらをテーマとしています。
栗本人の能力を「T」の字にたとえた時、従来の学部教育は「I」の部分・専門性を深めるスペシャリスト型人材を育成するもの。社会情報課程は「–」の部分・幅広い知識を身につけるゼネラリスト型人材をめざすもの。あれもこれも欲張りに学べる学部というワケですね。
中村高度な理系的知識や技術を求めるデータサイエンスではなく、文系的な情報学をカリキュラム化し、情報科学、AIなどのITリテラシーを高めつつ、文化・ことば・心理学・マーケティング・生活科学・教育などを学びます。
栗本学生はもちろん、社会ニーズにも合致している気はしますが、その際の既存学部の魅力は何になるのですか?
中村学部専門領域のスペシャリストになること。あるいは関連資格取得です。
中村I型の強みを活かしたキャリア設計を組み立てるという考え方ですね。

女性キャリアデザイン学環の横串は
「女性のライフキャリア設計」

中村この社会情報課程の学際教育の考え方をさらに発展させ、全学教育をマネジメントするND教育センターや国際教育センター、キャリアセンターとのシナジーを高めながら、女性のキャリア設計を図っていくのが、女性キャリアデザイン学環です【図①参照】。
栗本「女性のライフキャリア設計」が横串のキーワードになっている、と。
中村社会情報課程もそうですが、女性キャリアデザイン学環は、1年次から社会課題解決をめざした講義・ワークショップ・フィールドワークを組み合わせた課題解決型学習(PBL / Project Based Learning)を行い、年次が上がるごとにそのウエイトが大きくなるスパイラル型のカリキュラムを構想しています【図②参照】。
栗本社会課題解決に直接貢献しうる実践的なカリキュラムづくりをめざしている。
中村もともと本学は、企業や公的機関と連携したプロジェクトや活動、海外研修・留学プログラムが豊富にあります。女性キャリアデザイン学環ではさらに、海外のIT企業をはじめ、多くの業種から各自の英語力に合わせたインターンシップ先を提供する予定です。
栗本この構想を実現・成功するためのポイントは何だとお考えですか?
中村その答えは小規模大学であること、そしてその機動性です。もともと教員と学生の距離が近く、事務の窓口では学生ひとりひとりの顔と名前を覚えて対応します。その人にふさわしい選択肢をつくってもらうには、その人と伴走できる環境が必要です。これは共学の大規模大学ではできない、学生と教員の距離が近い女子大だからこそできる強みです。

【図①】 京都ノートルダム女子大学社会情報学環・女性キャリアデザイン学環の学際教育概念
【図②】 京都ノートルダム女子大学社会情報学環・女性キャリアデザイン学環のシラバス概念

尊ぶ・対話する・共感する・行動する
それがノートルダム流リーダーシップ

70年前のシスターの意志を継ぎ
ノートルダム教育の原点に返る

栗本お話を聞いて、あらためてノートルダム教育の原点に立ち返る思いがしまています。1948年、アメリカ・セントルイスから4人のシスターが、ほんの数年前までは銃を向け合った敵国・日本の京都に学校をつくりにやってこられた。キリスト教の普遍的な価値観に基づいて、自らに与えられた命を誰かのためにつかう、そのような心を自分の中心に据えている女性を育成することこそが日本を開き、未来につながる原動力となる。そう信じて遥かな海を渡ってきた。実は彼女たちこそ真にグローバルな人々であり、彼女たちが創立した本学院は、まさに初めから「グローバルな学校」でした。
中村京都ノートルダム女子大学は、服飾や調理・栄養の専門学校を前身とする女子大学とは多少事情が異なります。1952年のノートルダム女学院中学校開校、翌年の高等学校開校を経て、中学・高校の卒業生、在校生や家族からの要請を請け、1961年にその進学先として設立されました。専門学校的な技術や知識の修得が目的ではなく、もともとリベラルアーツ的な大学なのです。女性キャリアデザイン学環は、本学の設立経緯や教育方針を集約させた教育組織といえます。

栗本お話を聞いて、あらためてノートルダム教育の原点に立ち返る思いがしまています。1948年、アメリカ・セントルイスから4人のシスターが、ほんの数年前までは銃を向け合った敵国・日本の京都に学校をつくりにやってこられた。キリスト教の普遍的な価値観に基づいて、自らに与えられた命を誰かのためにつかう、そのような心を自分の中心に据えている女性を育成することこそが日本を開き、未来につながる原動力となる。そう信じて遥かな海を渡ってきた。実は彼女たちこそ真にグローバルな人々であり、彼女たちが創立した本学院は、まさに初めから「グローバルな学校」でした。
中村京都ノートルダム女子大学は、服飾や調理・栄養の専門学校を前身とする女子大学とは多少事情が異なります。1952年のノートルダム女学院中学校開校、翌年の高等学校開校を経て、中学・高校の卒業生、在校生や家族からの要請を請け、1961年にその進学先として設立されました。専門学校的な技術や知識の修得が目的ではなく、もともとリベラルアーツ的な大学なのです。女性キャリアデザイン学環は、本学の設立経緯や教育方針を集約させた教育組織といえます。

女性がトップの中・高・大
さらなる接続プログラムをつくりたい

栗本ノートルダム女学院のミッションコミットメントは、「尊ぶ(Respect)・対話する(Dialogue)・共感する(Empathy)・行動する(Action)」。人が人に接する際に必要となる基本的で普遍的な心を4つの動詞で表しています。この4つは、男女や時代を問わず、リーダーに求められる資質です。先ほど「少人数制が大切」というお話がありましたが、小学校、中学・高校、大学のいずれを問わず、ノートルダム女学院では「教員と生徒・学生との距離の近さ」を大切にしています。言うならば、キャンパス内には、いつも互いを尊び、対話し、共感し、行動できる環境が整っています。これこそが私たちのめざす教育です。

【ノートルダムのミッション】

中村もう一つお話しておけば、これだけ中学・高校と大学の距離が近い学校も少ないと思いますよ。今日もこうして学校長と学長が気軽に気さくにお話できます。俯瞰すれば、女子大学でも学長は男性が務められているケースが大半です。
栗本中学・高校も同じで、京都府の女子校で女性が学校長を務めるのは、1割もありません。ましてや同じ学校法人内で、中学・高校と大学ともに女性がトップで指揮を執る学校となると、全国的にも珍しいと思いますね。
中村すでに、中高大接続プログラムがいくつも行われています。高大連携プログラム[みらいデザイン☆ハイスクール]もその一つです。これからも一層、「女性のライフキャリア設計」支援に向けて、さまざまな連携プログラムを一緒に開発していきたいですよね。
栗本ぜひ、これからもよろしくお願いします。

高大連携プログラムみらいデザイン☆ハイスクール

高校時代にこそ、未来を考える機会を高大連携で未来を考えるワークショップを開催

 ノートルダム女学院・プレップ総合コースでは、“私らしい未来を見つける“というコンセプトのもと、高校3年間にわたる授業「フューチャー・プロジェクト」を展開している。その中の1つのカリキュラムとして、毎年秋には高校2年生向けに「みらいデザイン☆ハイスクール」を開催。さまざまな学部に進学した大学生や多彩な職業に就く社会人ゲストから、ありのままの生き方や価値観を聞くことができる場が設けられている。

 これは、京都ノートルダム女子大学・キャリア形成ゼミの1つ、ワークショップ・デザインゼミ(ND教育センター・濱中倫秀准教授)と連携した高大連携プログラム。濱中准教授指導のもと、ゼミ生たちが、企画・ゲスト選定・依頼交渉・当日設営などのすべてを統括・運営する。
 高校生にとっては、半歩先ゆく大学生や、やりがいを感じながら学び働く社会人の先輩たちと接し、等身大の刺激を受ける場となる。と同時に、ゼミ生にとっても、リーダーシップ/フォロワーシップを持って、すべてを取り仕切る経験の場にもなっている。高校生・大学生両者にとっての「Win-Win」が成立した高大連携プログラムだ。

例年、ゲストは約10名。それぞれのテーブルにつき、少人数でじっくり話を聞く
濱中倫秀准教授と「ワークショップ・デザインゼミ」受講生