ノートルダム女学院の
教育と社会を結ぶ交差点

CROSS TALK

人は自ら学び取った
ものしか身につかない。
「教える」よりも
「問う」勇気を

関西学院大学国際学部 關谷武司教授

2022.06.21 配信

關谷 武司

教授(教育開発)
関西学院大学国際学部

広島大学大学院教育学研究科博士課程修了
博士(学術)
JICA派遣専門家として、技術協力プロジェクトの立案、運営、評価を実施。2005年教育開発コンサルタント会社「クリスタルインテリジェンス」代表取締役。2009年4月より関西学院大学にて国際ボランティア担当。

栗本 嘉子

(専門分野:応用言語学)
学校法人 ノートルダム女学院 学院長
ノートルダム女学院中学高等学校 学校長

英国レディング大学(University of Reading)Department of Modern Languages and European Studies 博士課程修了 博士(文学)
京都大学、京都ノートルダム女子大学、神戸海星女子学院大学非常勤講師、オクスフォード・ブルックス大学客員講師、聖母女学院短期大学准教授を経て、2008年4月より母校中高へ。2012年4月学校長就任。2020年4月より、学校法人学院長就任。学校長兼任。

「オーナーシップ」が学びの質を変える
生徒が覚醒する1泊2日合宿研修

学校長・栗本嘉子が、「ノートルダム女学院流の教育」について、各界の専門家とともに語り合うCROSS TALK。今回のゲストは、毎年1泊2日で行われている「国際情報分析」プログラムを開発・運営協力してくださる関西学院大学国際学部・關谷武司教授をお迎えしました。

学びを「自分ごと」化する

栗本關谷先生、本日はようこそお越しくださいました。と言っても実は、昨日からのハードな合宿研修が終わった2日目の午後なんですよね。
關谷はい、「国際情報分析」というプログラムです。そもそも情報分析は何のためにするのか? それは、どこに真理があるのかを追究するためです。今年のプログラムの課題は「新型コロナ」でした。これまでは、たとえば尖閣諸島はどこの国のものなのか? といった高校生もよく知っている歴史的な課題を扱うことが多かったのですが、今年はあえてOngoingな課題にチャレンジしましょうと……。ものすごいチャレンジでしたね。
栗本このプログラムで私がいつも感動するのは、生徒たちが覚醒していくその様子です。生徒たちは、調べる・考えるを重ねるにつれ、「必ずこのトピックを自分のものにする」と強く思い始める。その「オーナーシップ」に感動するんです。自分ごと化していくプロセスを経験できる、それこそがこのプログラムの最大の価値だと思います。

疑問をエネルギーにして
真実を探す旅に出る

關谷問われた課題について、自分たちだけで調べを進めていくと、必ず「何でやろ?」という疑問にぶち当たります。一人の生徒が「あ、こんなこと書いてある」という答えを発見する。ほかの生徒が「こんな違うことも書いてある」と別の発見をする。何で違うの? 当然、混乱します。「でもこうも考えられるから、こことここ、つながるんちゃうの?」と別の生徒の見立てが入る。調べるほどに湧いてくる疑問をエネルギーにして、次々と「気づき」が重なっていく。
栗本その「気づき」のシナジーが生まれたときの、生徒の嬉々とした様子といったら……。
關谷「最後まで疑問を解決できないうちは寝られません」となる(笑)。
栗本もう消灯・就寝時間だからと言ってるのに、生徒たちはやめなかった。「先生、ここまではやらせて!」と。こんなにも生徒たちのやりたいという気持ちを引き出すことができる、このプログラムのパワーはすごいなと思いますね。

「問う」ことの大切さ

關谷たとえば、受験勉強するじゃないですか。歴史の年号も一生懸命覚えますよね。でもこれは「血の通ってない知識」です。一方で、自分で「これって何?なんでやろ?」と問い続けた後にたどり着いた知識なら、自分の言葉で翻訳して、誰かに語り、伝えることができる。
栗本そうですね。きちんと自分の腑に落ちたことなら、リプロデュースできる。毎回このプログラムでは、「問う」ことがとても重要なんだということに、改めて気づかされます。私たち教師は、このことを強く意識しないと……。
關谷私たち教師は、「教えたい病」なんですよね。
栗本そうですね(笑)。
關谷ついつい、「それはね……」と「教え」てしまう。でも、それでは学習者の思考は動かない。大切なのは「問う」ことなんです。こういう合宿形式でやると、午前中から午後、さらには夜に向かう間で起きる生徒の変化が一目瞭然でしょ。最初は生徒たちもどこか人ごとのよう。だから、自ら気づき考えるきっかけをつくる「問い」が必要です。ところが、生徒たちの思考が自走し始めたら、今度は暴れ馬のごとく拡散・暴走する生徒の思考をどうやって制御していくか、そういう「問い」に変えていかないといけない。

人生を主体的に
生きるために「学ぶ」

關谷問いに反応して気づきを得て、いよいよ本人が納得して「やろう!」となったら、そのとき僕ら教師がすべきは、「一緒にいる」ことだと思うんですよね。
栗本やはりキーワードは、「自分ごと」なんですよね。あくまで、進んでいく主体は「生徒たち本人」なんだということ。それはなにも情報分析に限った話ではなく、「生き方」にも通じる話です。自分の人生を主体的に生きる。誰かに教わった道でなく、自分で考え、判断・選択し、動き、切り拓いていく。そんな人生を歩むためにも、中学生・高校生のうちに、「教わる」ではなく「学ぶ」力を身につけてほしい、つけさせてあげたいと思います。自分の人生を自分ごとにできずに生涯を終えてしまうほど悲しいことはありませんからね。