
有賀 由佳
Yuka Ariga
音楽科 生徒会主任
2000年より本校音楽科教諭。専門はピアノ。毎年学校行事である合唱祭を企画運営。担任として常に掲げるクラスのモットーは、「クラス全員が喜びも悲しみも本音で語り合い、何事もおもしろがれるクラスに!」である。

小嶋 香那
Kana Kojima
プレップ総合コース高校2年生
文化祭実行委員長
クラブ&生徒会活動・学校行事のこれから
テーマ2
「代わり」ではなく「変える」。
“オンライン文化祭“という挑戦
これまでにはない”新しい何か“を生み出す
2021.04.05 配信
オンラインでつくる新しい文化祭
有賀 由佳
Yuka Ariga
音楽科 生徒会主任
2000年より本校音楽科教諭。専門はピアノ。毎年学校行事である合唱祭を企画運営。担任として常に掲げるクラスのモットーは、「クラス全員が喜びも悲しみも本音で語り合い、何事もおもしろがれるクラスに!」である。
小嶋 香那
Kana Kojima
プレップ総合コース高校2年生
文化祭実行委員長
3学期末試験が終わる2月中旬、例年であれば、この時期から次年度の生徒会活動の準備が始まる。4月からの生徒会を指導する教員の一人が有賀だ。14年前にも2年間生徒会主任を務めた。自身もノートルダム女学院OGだけに、後輩たちにもぜひ記憶に残る生徒会活動をつくってほしいと考えていた。
■ 生徒会の1年間のおもな行事と活動
5月初旬 | 生徒会予算承認会 各生徒会クラブ、文化祭や体育祭などの実行委員会が、1年間の活動にかかる予算を申請・決定 |
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6月 (~10月まで随時) |
オープンスクールサポート 来場した小・中学生に対して、在校生による校内ガイドや、日ごろの学園生活のプレゼンテーションなどを行う |
9月 | 文化祭 |
10月 | 体育祭 |
11月 | 京都私学フェスティバル参加 毎年11月に開催。京都の私学に通う中・高生を中心とした自主活動。私学の良さや私学助成金の大切さなど伝える |
12月 | 来年度生徒会長選挙 |
有賀は、生徒会活動を統括する立場にある。文化祭は、生徒会活動でもっとも大きなイベントだ。5月の予算承認会が終わると同時に活動が始まり、以降9月の開催当日まで生徒たちは準備に励む。だがそのスケジュールは、全国一斉休校の要請で宙に浮いた。
■ 例年の文化祭(3日間)のプログラム
初日 | 生徒による学年演劇発表・鑑賞 |
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2日目 | オープンデー 保護者の方やお客様をお招きしておもてなし。終日、各学年・クラス、クラブによるステージ発表や教室展示、有志による自由制作などが行われる。模擬店も出店し、3日間を通してもっとも賑わう一日 |
3日目 | プロの劇団の公演を観る芸術鑑賞 |
有賀は、休校前のそのドタバタを振り返る。
「3月2日以降の休校要請が発表されたのは、2月27日木曜の午後です。そのときはまだ、次年度の文化祭実行委員メンバーの顔合わせすら終わっていませんでした。突然の『最終登校日』となった29日土曜日、生徒たちは、学校に置いてある荷物を持ち帰るため、大きなトランクを持参して朝から荷物詰めにバタバタです。この日を逃したら、少なくとも春休みが終わるまでは連絡がとれなくなる…。そう思い、下校間際の高校生徒会長を呼び止め、何はさておき、LINEだけは交換してから帰宅させました」。
今年の文化祭実行委員長を任されていたのは、プレップ総合コース高校2年の小嶋だ。中学生のときから、毎年実行委員として文化祭に携わった。その経験をかわれて選ばれた。
「実行委員長に選ばれたのは2月です。ずっと関わってきただけに、私なりにいくつかの反省点があったんです。そのぶん、実行委員長となった今年は、中学・高校全校のみんながやりたいと思うことを実現したい!模擬店もいっぱい出したい!とにかく、悔いが残らない文化祭にしたい!と決めていました。休校の知らせを聞いたのは、9月に向けて動き始めようとしたところでした。その時点では、切羽詰まっていたワケではなかったんですが…」。
休校が始まった。3月が終わり4月を迎え、春休み期間を超えても登校できるめどは立たない。それどころか、非常事態宣言まで発出され、休校期間はズルズルと延長されていく。少なくともゴールデンウィーク明けまでは、生徒同志で顔つきあわせた会議は開けそうもない。次第に有賀も“このままではまずい”と感じ始めていた。
文化祭を開催するために中心となる生徒会役員は8人いる。高校からは文化祭実行委員長・副委員長、生徒会長・副会長の4人、中学からも文化祭実行委員長・副委員長、生徒会長・副会長の4人。有賀が連絡をとれる生徒は、休校前にかろうじてLINEを交換できた高校の生徒会長だけだ。
「まずは、高校の実行委員長・小嶋と連絡をとろうと考え、生徒会長に『私のLINEを小嶋に伝えて』と伝えました。小嶋と連絡が取れるようになったのは、ゴールデンウィーク明けです」。
一方の小嶋も不安を募らせていた。文化祭への思いが強かっただけに、日に日に気持ちがふさぎがちになる。
「毎年5月から本格的に準備を始めるけど、今年は休校中。私は何をどうすればいいのか? と悶々としていました。そこで有賀先生とLINEでつながった、ほっとしました」。
「今年の文化祭、できるんですか?」
「やらないの?」
「模擬店とか、いつものようにできますか?」
「無理やな。演劇とかも・・・」
やっぱり、今年は中止になるんやな…小嶋がそう思ったところに、有賀がアドバイスをくれた。
「いつも通りのことは、何もできひん。でも、いつもと違うやり方を考えれば、できるかもしれない。大勢の人がひとつの場所に集まらずにできる“何か”を考えてみ」。
「考えてみます」と返事はしたが、妙案があるわけでもない。小嶋は生徒会長と連絡を取り合い、まずはGoogle Classroomに生徒会役員8人がオンラインで集まれる部屋を開くこととした。同時に全クラブの部長にも声をかけ、クラブの意見を集約してもらうための部屋もつくってもらうように依頼した。
文化祭を開けるフェアウェイは、「大勢がひとつの場所に集まらずにできる“何か”」。となれば、できるのは「オンライン文化祭」。各学年・クラスやクラブで、それぞれに番組や映像を作って発表し合うスタイルでの文化祭だ。当然のように、みんなの意見はそこに落ち着いた。だが、本当に考えなければならないのはそこから。どんなコンテンツをつくるか? だ。
「おもしろくなければ、誰も制作に参加してくれません。やるからには、みんなで盛り上がれるテーマや仕掛けを考えなければ、やる意味がない。まずは生徒会役員8人が中心になって、クラブの部長も巻き込みながらアイデアを出し合い、有賀先生にぶつけることにしました。人気の高いテレビ番組やYouTube映像なども参考にし、テーマ設定や映像のつくり方などを研究して案にまとめる。有賀先生からは『できる・できない』の判断とアドバイスをもらう。『コレは無理、ボツ』『イマイチやな、もう一回考え直して!』。その繰り返しです。全部で20案以上は出しましたが、有賀先生、なかなかOK出してくれないんですよ(笑)」。
5月下旬、やっと案がまとまった。最終的に決まったのは、次の5つのプログラムだ。各学年・クラスは、このいずれかの部門にエントリーし、映像作品を制作してもらうことにした。
エントリー部門が決まったとはいえ、ミーティングに参加していない生徒には、何をどうつくればいいのか?中身がまるでわからない。おもしろそうだと興味を持ってもらうためにも、サンプル映像をつくることにした。
6月15日に本格的に学校が再開する前には、全校生徒に案内したい。再開した後では危機感が薄れて安心してしまうからだ。逆算すると、サンプル映像制作に使える期間は1週間しかない。生徒会役員8人で手分けして撮影し、テロップやナレーションを考え、編集して13分の映像にまとめた。編集作業は、小嶋がひとりで映像編集アプリ・iMovie を使って5日かけてつくった。
学校が再開する3日前、サンプル映像はGoogle Classroomにアップされ、全校生徒にエントリーが呼びかけられた。設定した制作締め切りは、夏休み明けの8月28日。そこに向かって、全校で準備が始まった。
エントリー部門のひとつ「サウンド・オブ・ミュージック」は、生活のなかにあるさまざまな音を映像とともに収録し、切り貼り編集してひとつの曲に組み立てるもの。
「高校生徒会役員で手分けし、家の中、通りや公園、学校などにある高音・中音・低音を集め、絶対音感を持つ生徒に音階を聞き分けてもらいながら編集しました。集めてみると、『シ』の音ばかりで『ファ』がないといった片寄りが出るんです。音が足りなければ、もう一度集め直しです。特に『ファ』の音は集まりませんでした。ためしにと教室の黒板消しクリーナーのスイッチいれてみたら、あのノイズ音が『ファ』だったり。みんなでかき集めた生活音からひとつの音楽をつくる、実際にやってみてその楽しさがわかりました」。
■ 今年の文化祭(3日間)のプログラム
初日 | 3コース(プレップ総合コース/グローバル英語コース/STE@M探究コース)による研究発表会 |
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2日目 |
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3日目 | プロのパフォーマンス集団のオンライン公演を観る芸術鑑賞会 |
小嶋は、今年の文化祭の一番の見どころをこう話す。
「2日目のプロジェクションマッピングです。京都大学から『ダジック・アース』という直径2mの球体をお借りして、そこに高校生徒会が制作したプロジェクションマッピング映像を投影・配信しました。映像テーマは、『当たり前の日常こそが本当の幸せなのかもしれない』としました」。
「コロナによって、私たちの日常は一変しました。あたり前すぎて気づくことすらなかった『普通の生活』って、実は全然普通じゃない。『あたり前』でいられることがどれだけ貴重で幸せだったのか、それを知りました。またそれを支えてくれている親、先生、学校、社会・・・周囲の人のありがたさも身に沁みました」。
「そこからさらに日本、世界にまで視野を広げて見れば、いま地球はいろんな問題を抱えています。『あたり前』や『普通』は、勝手にでき上がるものじゃない。課題に気づいて意識し、それを変えよう守ろうと努力してはじめて『日常』になる。今回経験したコロナ禍を機に、私たちなりに地球サイズの視野を持ちたい、そんなメッセージを込めています」。
最後に小嶋は、こうまとめた。
「たしかに、文化祭準備を進める途中では、例年の文化祭を懐かしく思う瞬間もありました。笑って泣いて考えて、そうできるのが一番ですから。それでも私は、私史上最高に記憶に残る文化祭ができたと自負しています。例年のことが『できないからやらない』では短絡に過ぎます。また、例年通りにできないので、『代わりの文化祭』をつくったつもりもありません。私たちは、既成概念に縛られずに『文化祭を新しく変えた』んだと思います。これからのノートルダム女学院の文化祭スタイルのひとつになってくれれば、嬉しいです」。