ノートルダム女学院高等学校 2017年度 卒業式 式辞

2017年度 ノートルダム女学院高等学校卒業式 式辞
2018年2月28日
学校長 栗本嘉子


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卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。また、保護者の皆様、高いところではご ざいますが、お嬢様のご卒業、誠におめでとうございます。3年間、そして6年間、ノートルダ ム教育の心に共感し、ご同伴頂き、誠にありがとうございました。パウロ大塚喜直司教様を始めとするご来賓の皆様、本日は、ご多用の中ご臨席賜り、心より感謝申し上げます。そして、本日は、24期卒業生の皆様も、2階席から見守ってくださっています。本日はようこそ、懐かしの母校へお越しくださいました。心から歓迎いたします。
さて、第63期卒業生の皆さん、皆さんは明日から、それぞれの社会の場、共同体の中で、ノートルダムの精神を生きておられる先輩方の仲間入りをされます。 本日この学び舎を巣立つ皆さんは、神様によって置かれたそれぞれの場所で、ノートルダムの精神を豊かに、また創造的に生きてほしい、それを校長として私は心から願っています。
皆さんが今日、この校門を出られる前に、もう一度、皆さんが身につけようと精進された、このノートルダムの精神とは何だったのかを振り返り、心に刻んで頂きたいと思います。「徳と知」これが、本校が拠り所としている建学の精神です。これまでもいろいろな機会にお話してきた通り、「徳」とは、神に愛されていることを悟り、自分も他者もそして、生きとし生けるすべてのものを尊び、そのために行動しようとする心のあり方です。「知」とは、真理を探究し、人間存在とその営み、神がおつくりになったこの世界、この宇宙の姿と仕組みの奥深さにふれ、その神秘に感動する力です。「徳」と「知」は、車の両輪であり、両方を同時に稼働させて初めて人としてまっすぐに歩むことができます。本校では、65年間、この「徳と知」を学校の心として大切にして参りました。
そしてさらに、日々の日常生活の中で、この精神を具体的に生きていくために、私たちはノートルダムという学園全体で、「ミッション・コミットメント~私たちの決意」という指針を作りました。皆がよく行き交った中央階段のところに、常に大きく掲げられているミッションコミットメントは、聖母マリアの生き方に倣う四つの動詞、「尊ぶ」「対話する」「共感する」「行動する」として表されています。わかりやすいように見えるこれらの言葉、聖母マリアのように尊ぶこと、マリアのように対話すること、共感すること、行動することは、実行するに決して簡単ではありませんでした。皆さんが歩まれた今日までの日々で、「ありがとう」や「ごめんなさい」とだれかに伝えることが素直にできなかったり、ある
いは、にっこりとほほ笑えむことすら難しい時もあったでしょう。「赦せない」と怒りの気持ちをもったこともあっただろうし、もうダメだと諦めようとしたこともあった。しかしながら、これらの瞬間が新たにされ、微笑む勇気を取り戻し、「ごめんなさい」と素直に言えた、赦し合って互いに抱き合えた、もう少しだけ頑張るんだと奮い立てた、怒りに荒れ狂っていた心に平和な静けさが降り注いだ、そのような心の変容がきっと皆さん一人ひとりの日々の中であったはずです。これらの心の変容は、いったいなぜ私や友人に起こったのだろう、そう思い巡らしたことはありますか。私は常に、皆さんに気づいてほしかったのです。皆さんをこよなく愛しておられる神様は、一人ひとりの心の深いところにおられるのだということを。この神様は、一人ひとり心の一番深いところにいらっしゃって、皆さんがその心の深みで、神様と出会う瞬間に、心は変容し平安を取り戻す、見えなかったものが見えるようになる。聴こえなかったものが聴こえてくる。誤っているところに真理を見出す。絶望だって希望に変わり、やり損ねたことをやり遂げる決意と時間を見出す。ノートルダムは、3年間、6年間かけて様々な機会を通して皆さんにこのことに気づいてほしいと願ってきました。どうか、これからも、日常の只中にあっても、心の深みにおいでになる神様の存在に気づこうと努めてください。そうすれば、皆さんの日々は、そしてその日々の積み重ねである人生は、尊い光に満たされていきます。


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この混迷する世界、ともすれば希望が見出せないような気持ちになる世の中にあって、皆さんの存在は「光」になっていくように、神様が招かれているのです。マタイによる福音書が告げている通りです。「あなた方は世の光である(5章14節)」。どうかご自身の内側の光の存在を信じ、未来の大海原へ力強く漕ぎ出してください。

世界の大海原に漕ぎ出す時、その道標となるのは、神につくられた人間の、古今東西において醸成されてきた知恵の集積、そしてそれを礎に、深くて清らかな水脈を求めて探究し続けようとする知的好奇心と、ワクワクしながらあなた自身が主体的に考えようとする力です。ここに、本物の体験が加わる時、あなたの世界は果てしない広がりを見せます。

今、私たちは、IT化とAIの進化とともに加速度的に激変し、これまでの知識や技能のみにもはや頼ることができない21世紀社会の真っただ中に生きています。しかしながら、この社会がどれほど予測不可能な方向へ流れようとも、果てしなく広がるあなたの世界を揺るぎない価値観で歩もうとすれば、決して自らを見失うことなはないでしょう。


皆さんはこれからまた新たな次元の学びの扉を開きます。その扉を、どのような心の眼と手で、開けていくのか、そのことが問われることでしょう。ノートルダム教育を受けたあなた方は、どうか、追い求めるものとその方法をノートルダムで学ばれた価値観で行ってほしいと切に望みます。すなわち、神の似姿として創造されたものとして、謙虚にすべての人と自然界に対し、敬意をもって対話的、共感的に関わり、キリストが自らの命を差し出して示された愛と、キリストが説かれた正義と、キリストが望まれた平和に基づき、希望をもって歩んでほしいということです。私たちの教皇フランシスコは、回勅「ラウダート・シ」の中で次のように言われています。

神の愛が創造されたすべてのものを動かす原動力です。(中略)あらゆる被造物は、世界における自分の場所を授けてくださる父の、優しさの対象です。最も小さなものの束の間のいのちさえ、神の愛の対象であり、存在しているほんの数秒間、神は愛情深くそれを包み込んでくださいます。
(ラウダード・シ #77)


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私たちの学校は、この教皇フランシスコの言われる神の愛を信じてきました。創立以来65年間、一人ひとりは神から愛された尊い存在であり、それをしっかりと確信して、安心して生きてほしいと願い続けてきた学校です。愛されていることをしっかりと確信できる者は、他者を、自然界を、自分が愛されているように慈しみ大切にすることができます。この世界で、ご自分が光となって、ご自身が愛されたように、周りを照らして愛してください。そして、キリストの平和を実現する人になってください。それが、この学校に身を置かれた皆さんのこれからのミッションだと、私は信じています。

最後に、この学び舎を巣立っていかれる皆さん、もう一つだけ、今年の卒業式だけに、話したいことがあります。皆さんの卒業の着衣であるキャップ&ガウンを脱がれる時、その下に着用されている制服は、本日、皆さんが校門を出られる時、その時が最後のお別れになります。私は自分自身も卒業生として、それは寂しい瞬間です。私はこの後、皆さんが学校を出発する時、その制服姿を最後に心に刻むために、校門に立って見守ります。65年間、愛されて皆さんに着続けられた制服に、「お疲れ様でした」と挨拶ができれば嬉しく思います。できれば、私の心に寄り添ってください。

お一人おひとりの新しい門出が、神様の祝福に満たされた素晴らしいものであるように心からお祈り申し上げて、私の式辞とさせていただきます。

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